伊勢崎の評価は低いものの、同じ看護師の吉岡は少なからず評価している。
そんな中、中島の初出場となる事故現場は紅美の過去を掘り返すものだった。
冷静な判断をしたつもりが、いつの間にか感情的になっていたのかと悩む紅美。
DMATを辞めるつもりでいたが、後に判断に間違いはなかったことを知る。
仲間とバカ騒ぎをし、気持ちが救われた紅美はDMATを続けることを決意した。
9巻のあらすじを振り返ってみましょう。
八雲の帰還
その日、空港には搭乗を急ぐある老夫婦の姿があった。
通路で夫は他者とぶつかり胸を打つものの、幸いなことに大事ない様だ。
そのころ、八雲も同じ便の搭乗手続きをしている。
ようやく台湾からの帰還が決まったのだ。
予定より3日遅れたが、無事に帰路に就く。
大規模な事故に出場していた為、ほとんど寝ていないままだ。
日本に着くまでの間、わずかな睡眠をとり始める八雲だった。
しかし1時間後、先の老夫婦に異変が起こる。
急に夫が呼吸困難を訴え苦しみ始めたのだ。
たまたまその場を見ていた客は看護師だった。
すぐに診察をするが、彼女の手には負えない容体だ。
すぐに機内にドクターコールが出される。
これに気づいた八雲はすぐに名乗り出た。
緊急を要する容体だが、飛行機には処置に必要な道具など無い。
ERを経験している看護師でも、このような状況は経験したことがなかった。
だが八雲はすぐにありあわせ資材で処置をしてしまう。
状態はすぐに改善し、羽田空港から無事に救急搬送されていった。
看護師は八雲の機転の利かせ方に驚くと同時に、直前に見せた機械のような冷たい表情が気になっていた。
嘘のない志
八雲が帰国することでDMATチームは再編成が行われ、中島は念願だった八雲チーム配属されることになった。
中島にとって八雲は東京の地震で活躍した伝説のヒーローだ。
だが紅美は地味で頼りない内科医だと言う。
それは八雲一人に負担が集中しないための紅美の心遣いでもあった。
しかし、自身も震災時は救命活動に従事し、危機意識が低い現場に忸怩たる思いを感じていた中島。
八雲の下でなら自身の力は存分に発揮できるのでないかと期待していた。
そんな中、大井埠頭で強風によるコンテナ倒壊事故が起こる。
八雲の到着が遅れる中、中島と吉岡は代理の泌尿器科医・金子に出場を要請する。
しかし、金子は資格は持っているが出場経験がない。
出場を渋る金子に、中島は頭を下げて必死に出場を懇願した。
現場は震災を再現したかのような大惨事となっていた。
赤タグ患者が多数発生し、深刻な状況だ。
泌尿器科の金子には荷が重く、自身を連れ出した中島を非難し始める。
中島もまた、震災を経験したにも関わらず被害者を目の前にして煮え切らない金子を非難する。
それは嘘偽りのない志からくる叫びだ。
しかし、そこに駆け付けた八雲にしてみれば、その声は患者を励ますために使うべき声だった。
八雲との対面
ついに中島は八雲と対面を果たす。
空港からタクシーで有栖川に向かっていた八雲は、ラジオから流れるニュースを聞き駆けつけたのだ。
自己紹介も後回しにして、すぐに救助活動が始められる。
八雲が指示を出すと、すぐに現場は動き始めた。
消防との信頼関係と判断の速さに中島は驚く。
しかし中島もまた、現場で役に立つことで自信を深める。
志の低いもの、自身を評価していない者に葛藤を覚えていた中島だ。
スムーズに現場を回す八雲の下で力になれることは喜びだった。
同時に中島の心に潜む闇がわずかに漏れ出す。
八雲なら自分を理解してくれるのではないか。
そんな薄暗い期待もひそかに抱いていた。
不要な勇気
結局八雲が現場を回すことで、1時間も経たないうちの殆どの処置を終えてしまった。
感心していた中島がふとあたりを見回すと人影に気づく。
その瞬間、傍らに積まれた資材が強風で崩れ始めた。
すぐに飛び出した中島に倒れた資材が襲い掛かる。
しかし、中島はとっさにつっかえ棒になるものを抱えていた。
下敷きになることを避け、要救助者の命を救った中島を周囲の者達が称賛する。
一方で吉岡や花田の表情は暗い。
それに気づかない中島は、当然八雲にも褒められるものだと期待していた。
そんな中島に八雲は落胆し、自身のチームに不要だと言い放った。
翌日、八雲は伊勢崎に事の顛末を報告する。
中島には適正な指導と矯正が必要だ。
災害現場では救助者の安全が第一であることを理解させなければいけない。
中島の勇気は、裏を返せば災害現場では危険な資質となりうるものだった。
伊勢崎の説得で八雲は引き続き中島の指導に当たることを了承する。
もともと危険に飛び込む資質を持つ者。
それは、災害現場にとって不適正な資質かもしれないが、また一方でそのような現場を自ら引き受けるというある意味で得難い人物でもあった。
中島の誤解
中島はスタッフルームで震災のレポートを読んでいた。
八雲の実績に驚くとともに、春子の顛末を知ってしまう。
実情を知らない中島には、八雲が冷酷な医師と感じられてしまった。
そんな中、首都高で多重衝突事故が発生する。
わだかまりの消えないまま中島も出場することとなった。
一歩、八雲は考えを改め中島を教え導くことを決意していた。
中島なら春子から託された人の命を繋ぐという使命を理解してくれるだろうと期待してのことだ。
現場に到着するとちょうど心停止が確認された中学生がいた。
すぐに八雲は診察を始めるが、助かる見込みはなく黒タグの判断を下す。
しかし中島は強固に心肺蘇生処置を主張した。
ほかにも見なければいけない患者が多数いる中で、八雲がそれを受け入れることはない。
納得できない中島は、身内にさえ平然と黒タグを切る偽物だと八雲に三下り半を突き付ける。
そこにやってきた吉岡が中島を怒鳴りつけた。
密かに思いを寄せる吉岡の態度が急変したことに中島は戸惑う。
八雲は吉岡に中島を任せると、また救命活動を再開した。
助けられない黒タグの患者に心の中で謝罪していた。
結局中島は一週間の謹慎処分となった。
八雲は内々に収めようとしたが、八雲を理解する吉岡はどうしても許せず院長へ報告したのだ。
もっとも受け入れがたい身内の死に黒タグを切り、次の患者に向かった八雲。
それを偽物呼ばわりしたことが何よりも許せなかった。
一方、自身も八雲の指示に従わなかったことがある長谷川は一定の理解を示す。
中島が抱える闇は意外に大きなものなのかもしれない。
村上の悩み
八雲は村上と飲みに出ていた。
DMATの後輩のことで悩みを抱える八雲に、村上は時の流れの速さを感じる。
いつものように明るく八雲をねぎらう村上だが、珍しく自分の悩みを打ち明けだした。
37になる村上は自分の将来を考え始めていた。
始めは嫌々だったが、今はやりがいを感じているDMAT。
もともとの専門である消化器外科。
結婚して独立開業。
遊びまわっている村上だが、長く交際している女性がいるのだ。
震災以降、真剣に考え始めた村上は先を急ぎ始めていた。
別の女からの呼び出しを受け、村上はその場を後にする。
入れ替わりで吉岡がやってきた。
村上が密かに呼び出していたのだ。
久しぶりの2人の時間を過ごす。
なんだかんだ言っても八雲にとって村上は優しい先輩だった。
花田の結婚
謹慎中の中島は自分への処分に納得していなかった。
死に抵抗しようとする意志を否定されたことが悔しかったのだ。
この日は花田の結婚式だ。
DMATのスタッフも招待され、晴れの門出を祝う。
その姿に村上もまた、自身の身の振り方を考えていた。
今交際している女性は地方病院の一人娘で、村上は婿入りを頼まれている。
そろそろ答えを出さなければいけない時期だった。
村上は中島に、謹慎明けから自分のチームの配属となることを伝える。
自身の居場所が残されたことに中島は涙を流して喜んでいた。
式が終わると、紅美が村上を酒の席に誘う。
中島の生い立ちを聞かせるためだ。
もともと中島は寺の跡取りではなく、寺に捨てられた孤児だった。
また捨てられることを恐れた山月は、自分を厳しく律し、まっすぐに育ったのだ。
それはもはや強迫観念にすらなっているのかもしれない。
だからこそ、山月は黒タグが切れないのだ。
弟分が傷つく姿を見ていられなかった紅美に、村上は自分が責任をもって面倒をみると伝えた。
雪崩現場
中島の村上チーム初出場は新潟に雪崩事故だった。
日本DMATからの要請を受けて応援に向かう。
村上・花田・中島の有栖川3バカとチームを組む水野は不安を感じていた。
現場は雪崩発生から30時間が経過し、すでに死者も出ている。
今回の出場はあくまで交代・補充養親としてだが、東京の震災で助けてもらった恩返しとて気合を入れる。
だが、暗くなってきても遅々として進まない活動に中島はいらだちを隠さない。
その日の捜索が一旦打ち切りになることを知った中島は憤慨するものの、村上が冷静に中島を落ち着かせる。
しかし、中島の本音は自分を拾ってくれた村上の為に力を尽くしたい。
はやる気持ちを押さえつけているに過ぎなかった。
繰り返される暴走
突如拠点を大きな音と揺れが襲う。
また大規模な雪崩が発生したのだ。
近くの病院が倒壊し、そちらの入院患者も搬送されてくる。
一気に慌しくなる中で、水野は中島が妙に生き生きしすぎていることに違和感を覚えた。
順調に医療活動が進んでいく中、現場に一方が入る。
倒壊家屋の内部に生存者の可能性が確認されたのだ。
中島は自分たちも連れていくよう救助隊に声を掛ける。
災害現場での経験が豊富な中島は救命率を上げる自信があった。
もちろん、救助隊がそれを認めるわけもなく、中島が一人でもめだす。
制止する救助隊員を振り払う中島。
飛ばされた隊員の先には注射をしている村上がいた。
隊員がぶつかった衝撃で手元が狂い、その針は村上の指にも刺さってしまった。
感染症のリスクを伴う「針刺し」は、本来あってはならない重大な医療事故だ。
落ち込む中島に村上が気にしないよう声を掛ける。
3日間の活動を終え、帰路に就く中、中島は随分と思い悩んでいるようだった。
感染
花田は雪崩事故の報告書を書いていた。
針刺し事故の顛末も報告書に乗せるべきものだったが、村上は自分の単独損傷として報告する様提案する。
一般的に針刺しから感染症をもらう確率は2%以下といわれている。
村上は楽観的に受け止めていた。
だが、救助隊ともめたことが原因で事故が起こったと知れれば、中島は今度こそクビだ。
中島を大切に育てようとしている村上は、切り捨てることができなかった。
しかし、花田の調査で村上が治療していた患者はC型肝炎ウィルスのキャリアであることが判明する。
もし自らが感染すれば、医師としての活動に制限を掛けざるを得ない。
すぐに血液検査を行い、結果を待った。
3か月後、村上の手元に陽性の通知が届くのだった。
【9巻のまとめ】
帰国した八雲のチームに中島が加わる。
あこがれていた八雲の災害医療は中島の理想からかけ離れたものだった。
現場で八雲にしたがわず、中島は謹慎処分を受ける。
謹慎が明けた中島は村上のチームに配属された。
自分を拾ってもらったことに感謝する中島だが、またしても正義感を暴走させる。
その結果、村上は針刺し事故を起こし、C型肝炎ウィルスに感染してしまった。
【9巻の見どころ】
この巻の見どころは、災害医療の現場で繰り広げられる緊迫した救命活動と、医師たちの葛藤です。
八雲が飛行機内で急変した老夫婦を救う場面では、限られた環境の中での冷静な判断力と卓越した技術が光ります。
一方、中島は理想と現実のギャップに苦しみ、雪崩現場では救助隊と衝突し、結果的に村上が医療事故に巻き込まれる展開へ。
彼の正義感は称賛されるべきものの、災害現場では自己抑制も重要だと痛感させられます。
さらに、村上の感染が判明した瞬間は衝撃的で、医療従事者のリスクの大きさが際立ちます。

次巻へ続きます。
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参考災害現場の最前線で人命救助に奔走するヒューマンドラマ『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜』全11巻【ネタバレ注意】
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