100mだけ誰よりも速ければ、どんな問題も解決する── ◇『チ。-地球の運動について-』の魚豊、“全力疾走”の連載デビュー作!! 「100m走」に魅せられた人間たちの、狂気と情熱の青春譚!!少年トガシは生まれつき足が速かった。だから、100m走では全国1位だった。「友達」も「居場所」もすべて“それ”で手に入れた。しかし小6の夏、トガシは生まれて初めて敗北の恐怖を知った。そして同時に味わった、本気の高揚と昂奮を──。100全力疾走。時間にすれば数十秒。だがそこには、人生すべてを懸けるだけの、“熱”があった。
(U-NEXT作品紹介より引用)
さっそく、1巻のあらすじを振り返ってみましょう。
目次
100mだけ速ければ全部解決する
100mの距離が人間の価値を決める、これはその100mに人生を懸けた男の物語である。
主人公のトガシはどこにでもいる普通の小学6年生だが、生まれつき走るのは速く、100m走では全国1位だった。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
その頃は足の速さこそが全て。
走るのは楽しかったし、足の速さだけあればいいとさえ思っていた。
そんなある日、学校に小宮という男の子が転校してきた。
小宮は根暗でいじめられっ子だったが、毎日帰り道をすごいスピードでダッシュしている小宮にトガシは興味を持って話しかける。
「現実より辛いことをすれば気が紛れる」というネガティブな理由で走り続ける小宮に対し、トガシは「100mだけ誰よりも速ければ全部解決する」とアドバイス。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
その日からトガシは小宮に走り方のアドバイスもするようになり、小宮は短期間でどんどん速さを手に入れていく。
クラスメイトからは小宮との仲の良さを冷やかされたために少し距離を置いてしまうトガシだったが、運動会では初めて「勝ってみたい」と口にする小宮にどこか動かされるものがあった。
そして運動会当日。
クラスメイトたちの冷やかしに動揺して転倒してしまう小宮に対し、トガシだけは熱意をもって小宮を応援。
その言葉で一気に火が付いた小宮はあっという間に逆転し、その組で1番となった。
これを機にクラスメイトたちが小宮を見る目も変わり、「速さは全てを変える」ということが証明された。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
しかしこれが後に自分の運命をも変えてしまうとは、トガシはまだ知らないのであった。
最年少記録保持者の仁神との出会い
小宮は運動会での活躍を経て一転してクラスに馴染み、記録を縮めることにも注力しながら充実した日々を送っている。
対照的に、これまで小宮をいじめていて運動会でも負けたクラスメイトは転落し、トガシも熱のない平凡な日々を過ごしている。
そんなある日、小宮からフォームの確認を頼まれたトガシは、小宮の走り方は完成したが、これ以上速くはならないことに気付き、それを本人に伝える。
そんななか、オリンピック元日本代表選手の息子、14歳にして100m走の最年少記録を樹立した仁神 武がトガシたちのいる小学校に職業体験で来ることとなり、ついでに100m走も見てくれることに。
陸上が好きな者として専門的な質問をしつつも「運動会の金メダルで十分。大会には出ない」と考える小宮に対して、「1位をとったらもう楽しいだけには戻れない」と言葉をかける。
次にトガシは「何のために走るのか」と質問。
すると仁神は「1位を取るため」と即答した。
その距離に生きると決めた以上、何があろうと諦めず、どこであろうと全力で走れ―。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
仁神は父からの教えを胸に刻み、絶対的な走りをして自分の居場所を確保することを信条としているのだった。
狂気の走りを覚悟する小宮
仁神が見守るなか、100m走の練習が始まる。
良い走りを見せたトガシはその才能を仁神に褒められた。
一方、小宮は直前に足を故障しているにもかかわらず全力で走り、フォームを崩したままトガシに迫るタイムを叩き出す。
それを見ていた仁神は、小宮に「走るのを辞めた方がいい。君は走るの向いてない」と告げた。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
走り方が全力すぎて、もはや恐怖を感じさせるレベルだというのである。
ショックを受ける小宮。
トガシは「どう走ろうが人の自由」とフォローするが、仁神は「故障を押し通してでも全力を貫くような気持ちで走り続ければ、一瞬だけ栄光を掴めてもいつか破滅する」と警鐘を鳴らす。
だが小宮は一瞬でも自分が栄光を掴めるなら、と逆に覚悟を固めた様子。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
そして学校からの帰り道、小宮はトガシに対して、メリットなど度外視したうえで非公式ながらも真剣勝負を挑み、トガシも何かが決定的に変わるであろうその勝負を受けるのだった。
トガシと小宮の真剣勝負
トガシと小宮の路上での真剣勝負。
冷静にいつも通りのペースで走るトガシに対し、小宮は故障と疲れのせいか、50m過ぎから失速。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
だがここから気持ちで走る小宮が怒涛の追い上げを見せ、トガシも初めて全力疾走を余儀なくされる。
その様子を、たまたま通りがかった仁神も見ていた。
先にゴールを通過したのはトガシだったが、慌てた様子で仁神が駆け寄って来るのに気づいて振り返ると、ゴール目前で小宮が倒れこんでいた。
小宮の足の甲はパンパンに腫れあがり、仁神の見立てでは疲労骨折して1日は経っている。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
そんな状態でもゴールまで走ろうとする小宮だが、仁神はすぐに救急車を呼び、小宮は涙を流しながらリタイア。
その晩、トガシは小宮がもし万全の調子だったら負けていたのではと思い、初めて敗北の恐怖と競争することへの高揚を味わう。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
しかしトガシの予想に反し、小宮は夏休み明けに転校してしまい、トガシの前に戻ってくることは無かったのであった。
劣化に焦る中学時代のトガシ
それから月日が経ち、トガシは中学3年になった。
全国大会では中1で最年少優勝し、以降の出場大会での記録は全て1位と負けなしの陸上生活を送っている。
だがトガシは周りからもてはやされるのとは対照的に、自分が成長できておらず才能が劣化していることを感じて焦りを抱えていた。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
今自分が評価されているのは全て陸上のおかげ、負けたらそれを全て失うことになる―。
敗北への恐怖から逃れるために努力し、中学を卒業。
そして高校に入学する頃、トガシは陸上部には入らないことを心に決めているのであった。
高校では陸上から距離を置くように
陸上の強豪校を避け、地元の公立校へ進学したトガシは、陸上部からの勧誘をも避けていたが、既に陸上のスター選手として地元ではちょっとした有名人になっていた。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
そんななか、2年生の寺川からアメフト部に誘われ、アメフト部員の身体能力の高さや、仲間と一緒に戦うこと、ミスしても気にしなくていいことなど、1人で全てを背負ってきた陸上とは違う文化を味わう。
自問自答しながらアメフト部への体験入部について考えていると、ちょうど陸上部の先輩が寺川たちアメフト部にパシリをさせられているところを目撃。
寺川はパシらせていることについて「遊び。嫌なら抵抗してるでしょ」など悪びれる様子もなく、また昨年起きた陸上部がアメフト部に対して起こした暴行事件を機に陸上部は廃部寸前の立場になっていることを教える。
アメフト部に入ろうと考えていたトガシだが、陸上部を見下す寺川に対して思わず否定的な言葉が出そうになり、身の振り方を改めてよく考えることに。
一方の寺川は有名人であるトガシをアメフト部に引き入れるため、顧問の山根先生にも協力を仰ぐのであった。
陸上部からの勧誘
ずいぶん昔の陸上のトロフィーが綺麗なまま用具室に置かれているのを見つけたトガシ。
するとそこに通りがかった陸上部の浅草 葵から話しかけられ、陸上部への勧誘を受ける。
どうやら陸上部は、今は不登校の部長、葵、パシらされている貞弘の3人しかいないらしい。
あくまで陸上部に入る考えはないトガシに対し、帰り道に合流した貞弘も「実力のない自分たち陸上部にトガシを巻き込むべきではない」との考えを示す。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
それでも「走りたいって想いから逃げられない」と情熱を持ち続ける葵は、トガシへのしつこい勧誘を諦める代わりにあることをお願いするのであった。
陸上に懸ける情熱を知る
葵がお願いしたのは、速くなるためにトガシの走りを見せてほしいというもの。
軽く走って終わらせようとしたトガシだが、ふと全力疾走する感覚が蘇り、その走りを見た葵の「凄い」という真剣な評価に心を動かされる。
そんな折、陸上部が大切にしていたトロフィーにカップラーメンのゴミが入れられて汚される事件が起きるが、それでも葵は逆境をバネに明るく振舞い続ける。
そんな葵の姿にビビりつつも憧憬の念を抱いたトガシは、「陸上は”良い”」という葵の言葉に前を向きかける。
しかし翌日、アメフト部顧問の山根先生の根回しによって、部員・活動の縮小を理由に陸上部の廃部が決まり、葵の陸上にかける想いも潰されることになってしまうのだった。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
陸上部のために立ち上がる
廃部を知りながらも粛々と現実を受け入れているように見える葵。
陸上部を馬鹿にしていた女子マネージャーから「走り続けて何か意味あったの?」と問いかけられると、葵は「無意味だったかもね」と笑いながら返す。
葵の陸上に賭ける想いを知っていたトガシは、突き動かされるように覚悟を固める。
敗北など恐れず、全力で走ることを。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
そして葵に陸上部への入部を宣言し、アメフト部に対して体育祭での部活対抗リレーで勝負することを申し入れる。
元々部外者であるトガシにとっては、この勝負は自分がスッキリすること以外にメリットはない。
それでもアメフト部の喫煙や暴行の動画などを材料に、寺川たちアメフト部を真剣勝負の場に引きずり込んだ。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
さらに自分が陸上部として大会にも出ることを校長に伝え、陸上部廃部の取消しも取りつけるのであった。
不登校の部長はまさかの人物
昨年はアメフト部にハンデをもらっても部活対抗リレーで惨敗した陸上部。
だがトガシは逆に、普通は8人で800m走るところ、陸上部は4人で走るというハンデを提示。
そして陸上部のメンバーを揃えるため、不登校の部長について顧問から情報を聞き出す。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
その部員名簿には、かつて100mの最年少記録を樹立したあの仁神の名前が部長として記されていた。
仁神の家を訪ね、インターホン越しに陸上部への復帰を促すトガシ。
仁神は自分の衰えを理由に拒絶するが、トガシは諦めずに改めて陸上部みんなでまた説得に来ることを決心するのであった。
アメフト部の妨害に負けずに団結
アメフト部との真剣勝負について、貞弘も「勝っても意味ない」と後ろ向きな姿勢を見せる。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
しかしトガシは「俺が絶対に勝たせる。あんたらの人生変えてやるから黙ってついてこい」と力強く宣言し、貞弘もこれまで馬鹿にされっぱなしで抵抗しなかった自分を変えようと決意。
他方、葵は本当にアメフト部に勝てるのか、勝てないなら練習する意味はあるのかと思い悩み、中学で陸上を辞めて今はアメフト部のマネージャーになったスズメからの「練習ガンバってもムダじゃん」という言葉が重くのしかかっていたが、練習に前向きな姿勢を見せた貞弘を見て自分も戦う覚悟を固める。
ところがこれから正式に陸上部として公式活動を再開しようとした矢先、アメフト部がグラウンドも体育館もトレーニングルームも貸し切る妨害工作をはじめ、練習場所がないという状況に追いやられてしまった。
アメフト部による設備の貸し切りに対し、陸上部顧問として抗議すらできない平子先生もまた、主体性がなく同僚から馬鹿にされ続けていることに憤りを感じる。
そんな平子先生は、夕方に公園で練習に励むトガシたちから物理的な知見からのアドバイスを真剣に求められ、ふと「トレーニングルームは今日はもう空いていたから今からなら使えるかもしれない」と伝えた。
トガシたちがトレーニングルームを使おうとしたところ、アメフト部の顧問の1人である後藤先生がそれを見つけて無許可での使用を咎めるが、平子先生はいつもは逆らえない後藤先生に対し、初めて「うるせぇ」と反抗。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
そして陸上部として団結したトガシたちは、仁神の説得へと向かうのであった。
仁神が不登校になった経緯
仁神は中3の頃に大きな怪我をして1年間欠場し、父の母校である無名校へと進学。
有名人だったこともあり、入学当初から周囲にもてはやされていたが、本人は怪我してから足が遅くなっていることを自覚し、誰かに気付かれる前に立て直す方法を模索するのに焦っていた。
父を外部コーチにつけ猛特訓の日々を送るが、結果はついてこず、それまで培ってきた自信は不安へと変わっていく。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
高2のある日、自分と共に高め合えるライバルを探しているところで偶然にも帰宅部で足の速い柏木と出会い、陸上部に勧誘。
メキメキと速くなっていく柏木がもてはやされるのとは対照的に自分は練習しても遅くなり、自分を慕ってくれるのは葵と貞弘だけになっていた。
そして迎えた都大会。
隣のレーンには柏木がいるが、まだ勝つことを諦めたわけではない。
しかし敗北の恐怖とプレッシャーからか、仁神は2回連続でフライングしてしまい、まさかの失格に。
これを機に世界は一変。
失望した父は姿を消し、取り巻きは消え、さらに応援しようと思っていた柏木も「アメフト部の方が得」と言って陸上を辞めてしまった。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
今までのツケが回るように一部のアメフト部から陸上部が敵視されるようになり、陸上部に残ったのは今の3人だけ。
それでも葵と貞弘のために走り続けようと思ったが、葵が自分のために用意してくれた思い入れのあるタオルをアメフト部にゴミのように扱われて堪忍袋の緒が切れ、アメフト部顧問の後藤先生と部員数名に暴行。
ビビった柏木は全力で逃げ、仁神は自分より速い柏木を捕まえることはできず、そこで全てを捨てて不登校になったのであった。
体育祭本番へ
トガシたちの熱意に圧されるがまま、数か月ぶりに家の外に出た仁神。
今の実力を知るためにトガシと競争することになり、早々にトガシの速さと自分の劣化を痛感する。
しかし、全てを諦めたはずだったのに、仁神の内側からは悔しさがこみ上げてきた。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
対処するには、現実を直視してただ走るしかない。
仁神は陸上部への復帰を決め、アメフト部との勝負に向けて練習が始まる。
陸上部の勝機は、後半のスタミナとバトンパス。
仁神はブランクを取り戻すために練習を重ねながら、陸上部は全員で武器を磨いていき、ついに体育祭本番を迎えるのだった。
「ひゃくえむ。新装版」1巻©講談社/魚豊
【1巻のまとめ】
100mだけ誰よりも速ければ、どんな問題も解決する。
生まれつき足が速く、小学生の100m走では全国1位だったトガシは、そう考えていた。
しかし小6の夏、トガシは転校生の小宮と出会い、故障を抱えながらも気持ちだけで走る狂気を前に、生まれて初めて敗北の恐怖と本気で走ることの高揚を知る。
2人の真剣勝負では小宮がゴール直前で故障により走れなくなりトガシが勝利したが、その後小宮は転校してトガシの前から姿を消してしまう。
その後、中学以降は伸び悩んで才能の劣化に焦りを感じたトガシは地元の高校へ進学し、陸上から距離を置いていたが、廃部寸前の陸上部の葵が陸上にかける情熱を知り、アメフト部の嫌がらせによって突き動かされるように陸上部に復帰。
嫌がらせに健気に耐え続けていた葵、パシりで使われていた貞弘、不登校の部長・仁神、同僚の教師からも見下されていた顧問が団結し、アメフト部と体育祭の800m部活対抗リレーで真剣勝負することとなる。
仁神は中学時代に最年少日本記録保持者を樹立した元天才スプリンターだが、高校に入ってから自分より才能のある柏木に負け、さらに柏木がアメフト部に転部していったことがきっかけでトラブルを起こして不登校になっていた。
ブランクを取り戻すべく練習を再開し、いよいよ体育祭本番を迎えるのであった。
次巻へ続きます。
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