今は亡き伝説の女優・淵透世の娘・淵累は、亡き母とは似ても似つかない醜い容姿が原因で周囲の人間から心無い仕打ちを受け続けてきた。
そんな累はある時、母が遺した一本の口紅に「口づけをした相手と顔を入れ替える力」があることを知る。
その力を使って舞台に立った累は、母譲りの演技力を発揮して芝居の楽しさや美貌から得る喜びを覚えると同時に、母も他人の顔を奪って生きていたのだと直感する。
美しさを手に入れるため他人の顔を奪って女優として名声を得ていく累、しかしその秘密を知る者が現れー。
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(※2024/03/17現在の情報です。最新の配信状況等は各公式HPをご覧ください)
登場人物紹介
淵 累(ふち かさね)
本作の主人公。目を背けたくなるような醜い顔と、小学5年時に西沢イチカとの諍いで出来た右頬の大きな傷跡が特徴的である。
その外見が原因で周囲から虐げられ続けたため、自身の容姿にコンプレックスを抱いている。
母親譲りの突出した演技力と演劇や舞台に対しての執着を持ち、母の遺品である「口づけをした相手と一定時間顔を入れ替える力を持った口紅」を使い、他人の顔を奪いながら女優として名声を得ていく。
女優・丹沢 ニナ(たんざわ ニナ)
累が同名の若手女優「丹沢ニナ」の顔を得て成り代わった姿。烏合の演出作品『かもめ』で主役を演じたこときっかけに脚光を浴び、「淵透世の再来」と評されるほどの女優として活躍したが、ニナの死亡に伴って顔が使えなくなったために姿を消し、世間的には失踪という扱いを受ける。
女優・咲朱(さき)
ニナの死後、累が野菊の顔を使用して活動した姿。「淵透世の生き写し」という触れ込みでデビューし、世界的に有名な演出家である富士原の目に留まったことで、実力派人気女優として活躍していく。しかしある舞台で高校時代以来疎遠となっていた幾と再会し、それがきっかけで一時期に舞台から離れることとなってしまう。
後に野菊と取引をし、羽生田が脚本・演出を手がける舞台『暁の姫』を最後の演劇にするとして復帰。しかし美しい巫女・暁を演じようとするも演じきれず、公演前に降板し姿を消す。
野菊(のぎく)
「本物の透世」の娘で累の異母妹。母譲りの美貌をもつことから、「女優・淵透世」に執着する父・与の手によって長年自宅に幽閉されて性的虐待を受けていた。
そういった境遇から美しさや芝居を嫌悪しており、また幼少期に母と誘が顔を入れ替えている現場を目撃して誘の所業を知ったことから、母と自分を不幸に追いやった誘のことを強く恨んでいる。
自身の境遇に耐えかねて父を撲殺した際に異母姉・累の存在を知り、家を出てからは娼婦として生計を立てながら、誘への復讐を累で遂げようと考えて行動していく。
丹沢 ニナ(たんざわ ニナ)
若手美人女優。眠り姫症候群を患っている。女優として世に名声を残すことと、自身が女優を目指すきっかけとなった演出家・烏合の演出作品に出るという夢が諦められず、累に自分の顔と名前を貸し、「女優・丹沢ニナ」として活動させていく。
結果として望みは全て叶うものの、烏合をめぐって累と対立。烏合が惹かれていたのが「女優・丹沢ニナ」であったことや「女優・丹沢ニナ」が自分の実力以上に活躍したこと、また眠り姫症候群が徐々に悪化し自身がほぼ活動できなくなったことで全てを「女優・丹沢ニナ」に乗っ取られたと感じて精神を病み自殺を図る。
一命を取り留めて植物状態となった後は累と羽生田によって「女優・丹沢ニナ」の「材料」として利用され続けていたが、ある日意識のみを取り戻し、自分の意志に唯一気づいた野菊に頼んで自殺を遂げる(殺害される)。その後彼女の遺体は羽生田によって秘密裏に処理されたため、世間的な扱いは死亡ではなく失踪となっている。
五十嵐 幾(いがらし いく)
累が高校時代に所属していた演劇部の部長。真っ直ぐで思いやりがある。高校生のころからプロの役者として活動している。
演劇部時代に出演した舞台・『銀河鉄道の夜』にて累の画策で意識の無い間に成り変わられたことがあり、その影響で「周囲が期待する五十嵐幾(累)の演技」と「五十嵐幾本来の演技」との差で長く苦しみ、一時は役者の道を諦めようとも考えていた。しかし「女優・丹沢ニナ」の演劇に感化されて再奮起し、富士原が演出する舞台において咲朱と競演することになり、その際に野菊の行方を探していた天ヶ崎から咲朱の正体を教えられ、以後は累の凶行を止めるべく野菊と天ヶ崎に協力していくようになる。
羽生田 釿互(はぶた きんご)
演出家。誘と同郷で、血縁上は誘の従兄弟にあたる。誘の過去と口紅の秘密を知る数少ない人物。
誘に心酔しており、彼女が生きていたころは舞台の大道具として働きながら、「女優・淵透世」としての活動をサポートしていた。
また、この時期に演出家として与や富士原に師事していたこともあり、その縁で富士原とは交流がある。
誘の死後は彼女の遺志を継いで累の協力者となり、累が女優として活動するための顔(ニナや野菊)の用意や、事務所を設立してのマネージメントやプロデュース、そして「口紅による顔の永久交換」の方法を探るなど、累を一流の女優にすべく様々な活動をしていく。
天ヶ崎 祐賭(あまがさき ゆうと)
高校教師。中学生時代のいじめが原因で顔に火傷の痕がある。自分を嘲笑する女生徒たちを「壊す」妄想にふける中、野菊と出会い、肉体関係をもつことと引き換えに野菊の復讐に協力していく。
当初はお互いに利害関係のみで付き合っていたが、野菊が自分と同じように火傷を負ったことで情が移り、利用し合うだけの関係から一転して恋人のような関係になる。以後は野菊に協力しつつも、復讐に身をやつす彼女の身を案じている。
誘(いざな)
累の母。故人。累と同様の醜い容姿の持ち主。
朱磐という村の出身で、村に残る「丙午の年に生まれた醜い女児は殺す」という因習を受けて殺されそうになっていたという過去をもつ。
朱磐で顔を交換する力をもつ朱顔料を入手したのち、羽生田を除く村人全員を殺害して村に火を放って街へと出る。
そこで小劇場で活動する劇団員・透世と出会い、彼女の顔を使って「女優・淵透世」として名声を得ていく。
「女優・淵透世」に惹かれた演出家・海道与と恋人同士となり結婚もするが、累を出産したことで誘と透世の関係が露見し、以降は仮面夫婦として過ごしていた。
最期は与により川へ落とされた累を助けて死亡したとされていたが、この際死亡したのは「本物の淵透世」であり、誘自身は与により監禁され徐々に衰弱するも、なかなか死なないことに業を煮やした与の命を受けた羽生田により「本物の透世」だと思われたまま殺されている。
女優・淵 透世(ふち すけよ)
誘が同名の劇団員「淵透世」の顔を得て成り代わった姿。誘の演技力と透世の美貌によって注目を浴び、当時新進気鋭であった海道与に引き抜かれる形で様々な舞台へと出演し、後に「伝説の女優」と評されるほどの人気女優となっていく。しかし舞台『マクベス』にてマクベス夫人を演じたのちに姿を消す。
淵 透世(ふち すけよ)
野菊の母。故人。小劇場で活動する劇団員で、女優を任されていた。しかし演技は拙く、本人は役者よりも衣装の制作に強い意欲を持っていた。
劇場にて空腹で倒れた浮浪者の誘を介抱し、その美貌と人の甘さから誘の標的となる。
口紅の効果を知った当初は「自分自身が演技するよりも劇団の仲間や客が喜ぶし自分も衣装の制作ができる」と誘が自分の顔を使って舞台に立つことをむしろ応援していたが、想い人である与が「女優・淵透世」となった誘と結婚したことから複雑な思いを抱き、与が「女優・淵透世」の真相を知るように仕向ける(ただし仕向けたと羽生田が推測しているのみで真意は不明)。
その後は誘を拒絶する与と関係を持ち野菊を儲けるにまで至るが、誘のような才能も知性も持っていないとして失望され、「女優・淵透世」の「材料」として地下室に監禁されるようになる。
誘の計らいで累とともに与のもとから逃げ出そうとするが、川へ落とされた累を助け、周囲の人間には「女優・淵透世」だと思い込まれたまま濁流に飲まれて死亡した。
西沢 イチカ(にしざわ イチカ)
累の小学校時代のクラスメイトで、累が初めて口紅の力を使って顔を入れ替えた人物。顔の交換・返却時のトラブルで死亡している。
表向きは活発な美少女でクラスのリーダー的存在だが、実際は陰湿で狡猾な性格で、累いじめの首謀者。
学芸会の演劇では累を主役に推薦し、本番で失敗させて観客の前で恥をかかせようと画策していた。
淵 峰世(ふち みねよ)
累の伯母で、母を亡くした累の未成年後見人。血縁的には「本物の透世」の姉であるため、野菊の伯母に当たる。
表向きは姪の累を手厚くいたわる聡明で心優しい伯母を演じているが、実際は利己的な性格で、誘の遺産のみを目当てとして累のことは冷遇していた。
累(顔を入れ替えられ、累だと思われているニナ)が植物状態となった際も、延命や介護を渋るなどの冷淡な態度を示す。
丹沢 紡美(たんざわ つぐみ)
ニナの母。「女優・丹沢ニナ」が本物の我が娘ではないと確信して周囲の人間に訴えるが、誰にも信じてもらえずカプグラ症候群の疑いをかけられ、心を病んでいく。
最期は「累」の芝居と「本物の丹沢ニナ」が残した日記から自身の考えが間違っていなかったという確証を得て、累に手を下す。
烏合 零太(うごう れいた)
ニナが女優を志すきっかけとなった演出家。若くして演出家として成功したが、順調すぎることに逆に不満を抱き、行き詰まっている。
自身が演出を務める舞台『かもめ』のオーディションに現れた「女優・丹沢ニナ」に魅力を感じ、主役に採用。
稽古を進めるうちに「女優・丹沢ニナ」と恋愛関係に発展するが、「女優・丹沢ニナ」の代わりに逢瀬にやってきた本物のニナに違和感を覚え、プラトニックな関係のまま終局する。
雨野 申彦(うの のぶひこ)
人気若手実力派俳優。舞台『かもめ』で「女優・丹沢ニナ」に興味を持ち、彼女を自分が出演する予定の舞台『サロメ』のヒロインに推す。
稽古においては「女優・丹沢ニナ」の演技について厳しく評したが、本番を迎えるころには演技力を高めた彼女を認め、『サロメ』の最終公演後、交際を始める。
「女優・丹沢ニナ」の失踪に伴い関係は終わるが、その後『マクベス』で共演することになった咲朱に対して、失踪した「女優・丹沢ニナ」の面影を感じ取るなど、存在を気にかけていた様子が描かれている。
海道 与(かいどう あたえ)
累と野菊の父親。気鋭の演出家として活動し、小劇場で脚光を浴びていた「女優・淵透世」を見出し、超一流の女優へと育て上げた。
「女優・淵透世」と結婚後、累の誕生によって誘と透世の関係を知り、「自分が理想としていた女性が本当はこの世に存在していなかった」という事実から精神を病み、隠遁生活を送る。
その後、容姿を理由に誘・累母娘を迫害し、実娘である野菊を幽閉・強姦するなどの非道を行った結果、野菊に撲殺されて最期を迎える。
富士原 佳雄(ふじはら よしお)
世界的に有名なベテラン演出家で、「女優・淵透世」や羽生田とは旧知の仲。
秒単位の緻密な演出を心がけ、役者の持ち味を引き出すのが上手い。舞台初日や来賓を怖がる小心な一面もある。
平坂 千草(ひらさか ちぐさ)
誘の育ての親。故人。朱磐村の外から嫁いできた人間で、助産師などとして活動していた。
誘が心を許していた唯一の人物で、「女優・淵透世」として生きるようになってからもその恩は忘れられていない。
羽生田に対しても優しく接していたことが語られており、誘が羽生田のことを「朱磐にまつわるもの」として嫌悪しつつも手を下さないのは、そういった縁があるため。
槻 浪乃(つき なみの)
誘が初めて顔を奪った相手で、凪と相思相愛の関係にあった美少女。誘によって殺害されている。
海道 凪(かいどう なぎ)
海道与の弟で考古学者。古代の朱顔料について研究していた。
調査の一環として訪れた朱磐村で波乃と出会い恋仲となり、同時に誘からも想いを寄せられていた。
『累』本編では行方不明となっており、所属していた研究室や野菊の手元に、資料や手記が残されているのみとなっている。