無力感を感じDMATを辞めようとする者の、伊勢崎の説得で決意を新たにする。
日々救急の研修を受け、経験を積んでいく中、伊勢崎の娘・紅美が有栖川にやってくる。
DMATを指揮し、圧倒的な実力を見せるものの、決して父の災害医療に対して理解を示しているわけではなかった。
3巻のあらすじを振り返ってみましょう。
エコーの故障
恵比寿にあるスーパー銭湯で起きたガス爆発事故。
発生から1時間後で死者2名、重軽傷者18名という大惨事だ。
八雲達が到着するころには、すでに3チームのDMATが活動していた。
緊急を要する赤タグ・黄タグの患者はすでに全員搬送済みだ。
八雲達は残っている緑タグ患者の2次トリアージを進めていった。
そんな中、85歳になる佐藤の容体が急変する。
直前まで歩行すらできていたはずだが、意識も失ってしまっていた。
ニュースを見て駆けつけた孫娘の証言から、一か月前に頭部を打ったことによる慢性硬膜下血腫が疑われた。
すぐに紅美のポータブルエコーで診断を試みるが、正常に動作しない。
血種の有無も確認せずに、野外で手術などできない。
脳外科が専門の紅美でさえ、いつ来るのかも分からない救急車を待つしかなかった。
ベターな手段
八雲は必死に考えを巡らせる。
本当に救急車が来るまでにできることは何もないのか。
まだ生きている患者を目の前にしてあきらめることはできないのだ。
その時、紅美が持ってきたものとは別のポータブルエコーに気が付く。
本来内蔵を見るためのものだが、使い方を工夫すれば、血種の有無くらいなら判断できるかもしれないのだ。
限られた環境下では、ベストな方法ではなくてもベターな手段があればよい。
八雲の提案から、血種の有無を判断する方法を紅美が考え実行する。
やはり佐藤の脳内に血種がある可能性は高く、すぐに手術をすることとなった。
孫娘に手術の同意を取る八雲を横目に、紅美はいらだちを隠さない。
もともと、紅美はこの知識を持っていたはずだ。
だが、エコーが壊れたことで冷静な判断ができず、可能性を探ることを放棄したのだ。
紅美は八雲がこの点で自分よりも優れていると認めざるを得なかった。
2か月後
八雲は虫垂炎の緊急手術も手際よくこなすほど成長していた。
村上も八雲の成長を外科医として認めつつある。
そのころ、爆発事故現場で頭部の手術をした佐藤は順調に回復を見せていた。
孫娘は子供を産み、佐藤にとって初めての曾孫となる。
普段は不愛想な佐藤も、自ら名付けた曾孫の姿に涙を流していた。
2年後の再会
八雲は奥多摩の駅で滑落事故の桐谷夫妻と再会していた。
山の上からは半年前に起こった大災害の爪痕が見て取れる。
八雲の額にできた傷が、凄惨な現場の記憶をよみがえらせていた。
2人を連れてきたのは、八雲が好きな場所に招待するためだ。
花が咲き、小川のせせらぎが聞こえる静かな場所。
八雲はその場所に、「大切な人」の遺灰を撒いていた。
八雲の誕生日
時間は少しさかのぼる。
その日は珍しく内科の診察が順調で、定時に帰れそうだった。
今日は八雲の30歳の誕生日だ。
スタッフが八雲の誕生日を用意してくれるものの、足早に帰路につく。
春子が祝いに来てくれるのだ。
保育士の手腕を発揮し、華やかに飾り付けられた部屋で鍋をつつく。
そこで八雲は春子には結婚を前提に交際している人がいることを知る。
動揺しつつも、肩の荷が下りたような気がする。
高校生のころ付き合っていた幼馴染のことを思い出していた。
その時、突然紅美が訪れる。
財布を落とし、タクシー代を借りに来たのだ。
タクシーを拾えるところまで紅美を送っていると、突然紅美が八雲に交際を申し込む。
だが、八雲は紅美の好意に気づかなかった。
工事現場倒壊事故
高校生の山村はひどいいじめを受けていた。
学校側も理解を示さず、登校ができなくなっていく。
リストカットを繰り返すようになり、死を願うようになっていった。
彼女の家の隣にはマンションが建っている。
強風が吹き荒れる夜、外装工事の足場が崩壊した。
山村の家は瓦礫に埋もれ、彼女もまた瓦礫に体を挟まれている。
救急隊がすぐに手当てを始めるが、危険な状態の赤タグだと判断された。
すぐに八雲達DMATが到着するも、火災を前提とした用意の中には処置のためのキットが含まれていなかった。
しかし、八雲は迷うことなく即興で代用品を作り、山村は一命を取り留めた。
リストカットの跡に気づいていた八雲は山村を励ます。
春子もかつてリストカットをしたことがあったが、今は幸せに生活しているのだ。
死を望んでいた山村だが、涙を流して助けられたことを感謝した。
生きている者
師長の長谷川には息子がいる。
アフリカでボランティア看護師をしていたころに出会った、アメリカ人ジャーナリストとの子供だ。
子供が生まれる前に戦場に戻った彼は、そのまま命を落としてしまった。
女手一つで子供を育てていくのは簡単なことではない。
しかし、子育てもDMATの活動も、命を繋ぐという人間本来の営みだ。
今の彼女にとって、全てをささげる価値のあるものなのだ。
一方、八雲はエレベータ事故で命を落とした柏木の妻を訪ねていた。
柏木の悲願だった店がついに開店したのだ。
開店までは大変な苦労があったようだが、彼女もまた生きていかなければいけない。
伊勢崎が保証人を買って出ることで、ようやく開店にこぎつけていた。
たくましく生きていく為には仲間や家族が必要なのだと八雲は学んだ。
命の選択
その日、丸山家は高速道路を快調に走っていた。
寝ている夫と子供を乗せ、妻の佑子が運転している。
だが、前を走るトラックの運転手が脳卒中を起こした。
横転したトラックが彼女たちの車を巻き込む。
八雲達が到着すると、丸山家の3人は全員赤タグとの報告を受けた。
だが、八雲の判断は佑子以外の2人は黒タグ。
夫と息子の助かる可能性は低かった。
しかし、佑子は自分よりも息子を助けてほしいと願う。
災害現場の鉄則からすれば、最も優先されるべきは赤タグの佑子だ。
八雲はすぐに佑子の治療を指示する。
だが、同じ母親として長谷川は子供の蘇生を優先してしまった。
長谷川は八雲の指示に従わない。
後方支援として来ている事務方・花田の手さえ借りなければいけない状況に陥った。
手が足りない八雲は長谷川の助けを望む。
だが、長谷川もまた八雲の助けを切望していた。
正しい判断
結局搬送先で夫と子供は助からず、佑子だけが生き残ることとなった。
長谷川もDMATとして八雲の選択が正しいことはわかっている。
だが、佑子の息子と自分の息子を重ねて考えてしまうのだ。
八雲もまた気を落としていた。
3人家族で生還したのは1人だけだ。
村上は八雲を励ます。
命の選択に正解は無いのだ。
DMATとしての八雲の判断は間違っていないはずだった。
ただ、それは佑子が望むものではなかった。
【3巻のまとめ】
八雲の現場での即興医学は紅美も一目置くものだった。
2年がたち、八雲はより成長した姿を見せる。
かつて助けた者や、遺された家族がたくましく生きていく姿を目の当たりにした。
そんな中、起きた事故で命の選択を迫られる。
DMATとして最善の判断が、必ずしも当事者の望みとは限らないことに八雲は悩む。
【3巻の見どころ】
この巻の見どころは、八雲の成長と、極限の医療現場での「最善の選択」が必ずしも正解とは限らないという葛藤です。
エコー故障という予期せぬトラブルの中、八雲は機転を利かせ、佐藤の命を救います。
紅美との対比が際立つこの場面は、八雲の医師としての進化を象徴しています。
また、高速道路での事故では、母親の命を優先するべきか、彼女が願うように息子を救うべきか、極めて難しい判断が求められます。
DMATの原則を貫く八雲と、母親の気持ちに寄り添う長谷川の対立が、命の選択の重みを際立たせます。

次巻へ続きます。
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