美人で伝説的な女優である母・淵透世の元に生まれた醜いかさねは、その風貌からいじめられていた。
亡き母の口紅で他人と顔を入れ替えられることに気が付いたかさねは、その力を使って美人と顔を入れ替え舞台で演じ始める。
そんなある日、母の秘密を知りながら女優としての活動を支援していた羽生田 欣互(はぶた きんご)と名乗る男性がかさねの前に現れた。
かさねをプロデュースすることを目論む羽生田はかさねを美しい顔を持つが演技力のなさに悩む舞台女優・丹沢ニナに引き合わせる。
かさねはニナとの合意のもと、顔を入れ替えて舞台に出演することになり名声を得ていく。
次第に同じ男性を好きになりライバルとなった2人のパートナー関係は解消へ向かうが、ちょうどニナが眠り姫病という持病で長期間眠りこんでしまい、ニナの同意を得ることなく顔を奪い続けたかさねは舞台を成功させ「注目すべき若手女優・丹沢ニナ」の地位を自分の物にしていった。
自分の顔をした他人が名声を得ていく様子を見続けて精神的に病んだニナは自殺未遂を起こし、植物状態になってしまう。
かさねはニナを追い詰めたことに罪悪感を感じつつも羽生田に自身の本当の気持ちを問われ、醜い顔を捨てた今の生活を死守する覚悟を固めた。
他方、かさねの母はいざなと言い、淵 透世の美しい顔を奪って伝説的な女優として活動していた。
本物の透世の娘・野菊は自分に透世の姿を求める父の虐待に耐えかねて父を殺害し、母を苦しめたいざなの娘・かさねの居場所を探し始める。
そんななか、かさねは野菊と出会い、野菊が自分を探していることも知らず友情を育んでいくが、売春で生計を立てている野菊は天ヶ崎という男を使って調査をするうちに口紅の秘密を知り、今のニナは偽物で中身はかさねであると確信。
かさねがニナを装い脚光を浴びていることが許せなかった野菊は、植物状態から意識を取り戻していた本物のニナに頼まれてニナの死を手助けした。
ニナが息を引き取ったことでかさねはニナとしての活動を継続できなくなり、羽生田と共に身辺整理をしながら「ニナの失踪」のほとぼりが冷めるのを待つ。
だが美しい誰かになるという生き方を変えることができないかさねは野菊と再会し、野菊もあえてかさねの正体を知らないふりをして、2人は顔を入れ替える契約を結ぶ。
咲朱として再度女優デビューし注目を浴びていくかさね。
野菊はかさねに復讐を果たすため、口紅をすり替えかさねの醜い顔を観客に晒そうと企んでいたが、計画は羽生田に気付かれ、失敗に終わった。
かさねも野菊に裏切られていたと知り絶望し、野菊との友情は捨てて自分の野心のために手段を選ばない覚悟を固める。
そして羽生田はいざなの過去について全てを打ち明け、いざなは永遠に顔を交換する方法に行きついていたが、夫の海道から殺されそうになった幼いかさねを庇って命を落としたことが明かされる。
それを思い出したかさねはより一層演劇に打ち込みながら、永遠に顔を交換する方法を探すように。
高校時代の演劇部で初めて顔を交換した相手である五十嵐幾が舞台女優として成長し、かさね扮する咲朱とのダブル主演が決まる。
しかし野菊の行方を探し続ける天ヶ崎は幾に接触してかさねの秘密を伝え、2人は共謀して野菊を救い出し、顔の交換ができなくなったかさねは舞台を降板し失踪した。
羽生田は女優を続けさせるため、野菊は殺すためにかさねを探し続けるのだった。
12巻のあらすじを振り返ってみましょう。
かさねと羽生田の約束
かさねと羽生田はいざなの故郷である朱磐で再会した。
羽生田は朱磐といざなの歴史を話し始める。
いざなは村に伝わる伝承と神楽から、口紅の原料となる日紅を発見し、日紅を利用して美少女の顔を奪ったうえ、村を火で焼き尽くした。
醜い女が美しい女に生まれ変わって全てを焼き払う光景をこれまでで最も美しいと感じた羽生田は、その光景を舞台にしてもう一度再現するために自作の舞台を用意していると言う。
いざなも透世として出演が決まっていたがその出演が果たされることはなかったようだ。
かさねは羽生田の舞台に出ることに決め、もう一度咲朱として活動するため、2人は野菊を探すこととなった。
妙に落ち着いているかさねの様子を見て、かつていざなが姿を消した時と似ていると感じた羽生田は、咄嗟に「俺の前から消えるな」とかさねに釘を刺すのであった。
野菊の愛する人
野菊は天ヶ崎の家を出て幾と暮らし始めた。
野菊はいつしか天ヶ崎のことを本当に愛するようになっていたが、これ以上巻き込むわけにはいかなかった。
野菊の気持ちを知った天ヶ崎は、優しく野菊を送り出すのであった。
最後の契約
羽生田の元へ、咲朱が富士原の事務所に現れたという情報が入る。
羽生田とかさねはそれが野菊だとすぐに分かった。
野菊は憔悴したような素振りで、不思議なメッセージを残して立ち去ったそうだ。
かさねはそれが待ち合わせ場所を示していると確信する。
明らかに野菊がかさねをおびき寄せるための罠だ。
かさねはそのメッセージが示す場所について羽生田に嘘をついて1人で向かわせ、自分は本当の場所である高校の体育館(かさねと幾が出会った場所)へ向かった。
そこにはかさねの読みどおり、野菊と幾がいた。
しかしかさねを信用していなかった羽生田も、かさねを尾行してそこに合流。
自分を出し抜こうとしたかさねに怒りをぶつける羽生田に対し、かさねは羽生田と約束した朱岩の舞台に咲朱として出演するのを最後に、女優を辞める考えを口にした。
そして口紅も使わないと誓うから、もう一度だけ協力して欲しいと野菊に頼む。
その証拠として、自分の命と同じくらい大事な口紅すら野菊に預けるかさね。
羽生田は野菊に対し、天ヶ崎をネタに脅そうとするが、かさねは舞台が終わるまでは天ヶ崎に手を出させないことを約束する。
最後の舞台が終わった後には、自分を殺しても構わないとまで言うかさねの想いを信じ、野菊は提案を受けることに決めた。
だがなぜかさねがすんなりと口紅を差しだしたのか、不気味さは残る。
そして命を賭してまでかさねが生きる道を示したいざなの遺志を尊重する羽生田もまた、勝手に女優としての活動を終えることを決めたかさねに怒りをぶちまけるのだった。
暁の姫
羽生田の脚本「暁の姫」は素晴らしい作品だったが、かさねは咲朱としてどう演じるべきか全く分からずにいた。
こんなことは今まで初めてだった。
かさねは幾に相談し、2人は本音でぶつかっていく。
「暁の姫」の稽古が始まり、かさねは再び野菊と顔を入れ替えたが、表情は以前の咲朱とは違い暗かった。
羽生田にとってはいざなが自ら「この舞台に出たい」と語ってくれた思い入れの強い作品であり、「美しい巫女の暁」と「醜い巫女の宵」が対をなして絡み合っていく運命を描いたストーリーのなかで、いざなの再現としてかさねが美しく生まれ変わる姿を演出しようとしていた。
咲朱として「美しい巫女」役を担うかさねはそれを受け、相手役を幾にして欲しいと羽生田に提案、羽生田も承諾した。
かさねは稽古中も今までのように集中して演じることが出来ず焦る。
それは幾も同じだった。
醜い巫女の心情を理解するヒントを得るため、幾はかさねの顔を借りて街へ出てみる。
幾は醜い顔に向けられる視線に耐えられず、すぐに帰ってきたが、以前よりかさねの気持ちを理解することが出来たのだった。
考古学者・海道凪の手帳
羽生田と野菊はかさねの様子がいつもと違うことから、かさねが何か企んでいるのではないかと疑う。
2人は顔の永久交換の謎を解くため、古代の朱顔料について研究し日紅に辿り着いた海道凪という考古学者の研究について調べることに。
「海道」という名字から憎き父との関係を想起して表情を曇らせる野菊。
海道凪の論文からは直接的なヒントは無かったが、その筆跡を見た野菊は父の屋敷で拾った手帳と同じ筆跡であることに気が付くのだった。
【12巻のまとめ】
かさねは羽生田と再会し、羽生田の舞台を最後に引退し口紅も使わないと決める。
野菊はその約束を条件に、かさねが再び咲朱として舞台に立つことを認める。
最後の舞台は羽生田が脚本を手掛ける「暁の姫」。
羽生田にとってはいざなが自ら「この舞台に出たい」と語ってくれた思い入れの強い作品であり、「美しい巫女の暁」と「醜い巫女の宵」が対をなして絡み合っていく運命を描いたストーリーのなかで、いざなの再現としてかさねが美しく生まれ変わる姿を演出しようとしていた。
かさねの提案で宵役として幾の出演も決まり、稽古が始まったが、かさねは今までのように演技に集中出来ずにいるのだった。
次巻へ続きます。
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