100mだけ誰よりも速ければ、どんな問題も解決する。
生まれつき足が速く、小学生の100m走では全国1位だったトガシは、そう考えていた。
しかし小6の夏、トガシは転校生の小宮と出会い、故障を抱えながらも気持ちだけで走る狂気を前に、生まれて初めて敗北の恐怖と本気で走ることの高揚を知る。
2人の真剣勝負では小宮がゴール直前で故障により走れなくなりトガシが勝利したが、その後小宮は転校してトガシの前から姿を消してしまう。
その後、中学以降は伸び悩んで才能の劣化に焦りを感じたトガシは地元の高校へ進学し、陸上から距離を置いていたが、廃部寸前の陸上部の葵が陸上にかける情熱を知り、アメフト部の嫌がらせによって突き動かされるように陸上部に復帰。
嫌がらせに健気に耐え続けていた葵、パシりで使われていた貞弘、不登校の部長・仁神、同僚の教師からも見下されていた顧問が団結し、アメフト部と体育祭の800m部活対抗リレーで真剣勝負することとなる。
仁神は中学時代に最年少日本記録保持者を樹立した元天才スプリンターだが、高校に入ってから自分より才能のある柏木に負け、さらに柏木がアメフト部に転部していったことがきっかけでトラブルを起こして不登校になっていた。
ブランクを取り戻すべく練習を再開し、いよいよ体育祭本番を迎えるのであった。
最終巻のあらすじを振り返ってみましょう。
目次
トガシがまさかの負傷
陸上部のリレーの分担は、葵(100m)→貞弘(100m)→トガシ(300m)→仁神(300m)。
人数的にも上回るアメフト部には楽勝ムードが漂う。
だが1走がスタートするとすぐに空気が一変。
葵は日ごろの練習の成果を発揮し、スポーツ強豪校の男子部員を相手にリードを奪ってスムーズにバトンパス。
2走の貞弘は一時逆転を許すも根性でくらいつき、コーナーのインコースの狭い隙間をすり抜けて追いつく。
貞弘からバトンを受け取ったトガシは、寺川を相手に圧倒的なスピードでぐんぐん差をつけていき、100mを通過。
しかしここからさらに加速しようとしたとき、このタイミングで足に激しい痛みが出てしまう。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
このまま続けたら陸上人生を諦めざるを得ないかもしれないほどの怪我の予感。
一気に減速し寺川も追い上げてくるなか、執念で走り続けるトガシ。
その姿を見かねた仁神がスタート位置を100m移動し、自分が残り400m走るプランに変更してバトンを受け継ぐのだった。
執念の走りを見せた仁神
仁神にバトンが渡ったのはアメフト部とほぼ同時。
仁神は持ち前のスピードでリードを奪ったまま、残り200mに突入する。
しかし長いブランクのある仁神にこのハイペースを維持し続けるスタミナは無い。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
執念で走り続け、残り100m。
ほぼ同時にバトンをパスしたアメフト部のアンカーは、因縁の柏木。
柏木のスピードに後れを取った仁神だが、諦めることなく限界を超えて走りぬき、最後は僅差で逆転勝利を飾った。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
アメフト部の他の部員をはじめ、見ていたものは一瞬の静寂の後、激闘に沸くのであった。
彗星のごとく現れた怪物の噂
その後、アメフト部の暴行動画などの流出はなく、アメフト部は勝手に内部分裂。
トガシの怪我は幸いにも回復し、5月の大会を迎える。
トガシと仁神がインターハイ出場を決める一方、北九州では日本選手権5年連続優勝している財津選手の大会記録タイというとんでもない記録を出した1年生・小宮の情報が陸上関係者の間で衝撃と共に出回る。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
中学時代は名前を聞かず、彗星のごとく現れた怪物。
インターハイ当日、トガシと仁神はそれが小学校のときに骨折し、姿を消したあの小宮であることを知るのであった。
怪物の正体は姿を消していた小宮
男子100mの予選第1組、小宮と隣のレーンとなった仁神は上々のスタートを切る。
だが小宮が驚くほど精密な走りであっという間に加速し、断トツでフィニッシュ。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
自分の限界を知った仁神は集団の中で競り負け、予選敗退に。
恐るべき速さを手に入れた小宮、中学時代にはいったい何が起きていたのか―。
小宮の過去
九州一の名門・西沢高校に一般枠で入学し、陸上部の入部試験を受けることにした小宮。
2年生にして部長を務めるのは今一番の有望株でもある経田である。
その経田が見守る前で小宮は驚異的なスピードを披露するが、トップスピードに乗る前にリズムを崩して失速してしまう。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
無事に入部試験はパスしたものの、過去の骨折のせいでイップスになっていることを告白する小宮。
小宮が1人で全てを背負い込んでいるのを聞いた経田は、「部員は同じ志を持った仲間。支え合えばいい。陸上だけが全てじゃない。人生を大切にしろ」とアドバイスする。
経田も小宮の才能には一目置いているようだ。
そんなある日、高校で財津選手の講演会が開かれることとなり、質疑応答の機会を得る。
リップサービスなどなく、ぶっきらぼうに端的に受け答えする財津に対し、経田は「大きい大会の決勝にはどういう精神状態で臨んでいるか」と質問。
財津は哲学的な言葉で返し、質疑が噛み合わないまま経田のターンは終了。
次に手を挙げた小宮は、イップスや不安への対処の仕方について質問。
すると財津は「不安は対処すべきではない。不安とは君自身が君を試す時の感情だ。栄光を前に対価を差し出さなきゃならない時、ちっぽけな細胞の寄せ集め1人、人生なんてくれてやれ」と回答。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
仁神・トガシ・経田とは違い、人生をも投げ捨てることを初めて肯定された小宮は、これを機にイップスを脱却。
タイムを順調に伸ばしていき、経田は焦りを感じ始めるのだった。
イップスを乗り越えた小宮
経田は周囲に嘘の噂を広めて小宮の評判を落とすような手段に出る。
一方の小宮は実力で黙らせればいいと考え、否定することもなく練習に集中。
公式戦をこなすごとに徐々に経田に迫る走りを見せていき、いよいよ逆転されてもおかしくないと感じた経田は、ついに口の堅い部員に命じて暴挙に出る。
それは、小宮のスパイクをボロボロに壊すというもの。
やられた小宮は怒りに震えながらも財津の言葉を思い出し、ガムテープなどでスパイクを無理やり補修した状態でスタートラインに立つ。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
そしてその状態で財津の大会記録タイの走りを見せ、見事に経田を破って優勝。
小宮は「陸上が全てじゃないんです。でもその代わり、陸上じゃもう二度と僕に勝てない。勝たせないんで」と経田に吐き捨てるのだった。
インターハイ決勝、トガシvs小宮
インターハイ決勝、天気は大雨。
トガシと小宮の直接対決に注目が集まるなか、抜群のスタートを見せたトガシが前半で頭1つ抜ける。
しかし中盤からトップスピードに乗った小宮が逆転。
トガシは陸上部の応援を背中に受けて心が緩んだのか、そのまま小宮に追いつくことができずに2着に終わった。
ここであっけなくトガシの無敗記録は終わり、長い夢から醒めるのであった。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
10年後の現在地
あれから10年の月日が流れ、小宮は日本の短距離界のエースとして世界陸上に出場するまでに成長。
一方のトガシは「普通」レベルの選手に成り下がり、(株)クサシノの契約選手として陸上を続けているものの、緩やかな右肩下がりでいつクビを切られてもおかしくない状況だった。
今年も何とか契約延長にこぎつけたが、チームのトップとして15年間走り続けている海棠に追いつくのはおろか、若手の樺木よりも期待されていない。
果たして自分は何のために走り続けているのかも、自分の中で何が変わってしまったのかも、どうすればいいのかもよくわからない。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
なんとなく企業の新年会に顔を出し、海棠に現実の対処法について相談してみることに。
すると海棠も、後から出てきた財津に抜かれて今もトップの座を明け渡している現実に直面していることを明かすが、海棠は「次こそは自分が勝つ。何のために走るのかわかってりゃ、現実なんていくらでも逃避できる」と信条を語った。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
その言葉を受け、トガシは現実に負けずにただ走ることに集中するのであった。
陸上への情熱が再燃
2か月後、都内の大会に出場したトガシはトップの樺木には敗れたものの2位入賞という好成績を残す。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
これで日本陸上の参加資格を獲得し、浮上のきっかけをつかんだ。
「勝敗じゃなくどこかの誰かのために走ること」が自分にとっていい現実逃避の方法だと考えたトガシだが、海棠は現実をもっと直視して向き合わなければ現実からは逃げられないと忠告。
そしてその忠告が現実のものとなってしまったのか、トガシは大会直前の練習中にオーバーワークで肉離れを起こし、ドクターストップがかかってしまう。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
やむなく「来年頑張ろう」と気持ちを切り替えたものの、日本陸上への出場が叶わなくなったことでトガシは企業から契約を打ち切られることとなった。
あっさりとクビを言い渡され、行く当てもないトガシ。
夕方の公園で佇んでいると、走る練習をしている小学生の男の子2人組を見つけ、思わず声をかける。
子供たちに「負けたっていい」などとプロとしてアドバイスを送るが、唐突に辛い現実と涙が内側からこみ上げてきた。
そして自分が「まだ走りたい、勝ちたい」という強い気持ちを思い出し、目を覚まして「今」に全てを懸ける決意を固めるのであった。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
日本陸上開幕
日本陸上が開幕。
トガシは個人として出場を強行し、見違えるような走りを見せる。
予選では樺木に競り勝って1着でフィニッシュし、準決勝では樺木に次ぐ2着だったものの決勝進出を決めた。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
そして準決勝のもう1組では小宮・財津・海棠が激突。
下馬評では財津と小宮に注目が集まっていたが、海棠が最高の走りを見せた。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
中盤で小宮を抜き、トップを走る財津を猛追して逆転、そのままトップでゴールし、歴代2位の記録を叩き出したのである。
2着は小宮、そして力尽きたように失速した財津は5着に沈み、決勝進出を逃す波乱の展開となった。
レース後、「記録を気にせず、財津選手に勝とうとしたこと」が良かったとインタビューで語る海棠。
他方、記録のことだけを考えて走り続けてきた小宮は、自分が間違っていたのかと疑問を抱えて翌日の決勝を迎えるのであった。
最高の全力疾走
決勝当日、達観したトガシは走る理由を「ガチになるため」という答えに行き着いていた。
真剣になっているときの幸福さを知るトガシとは対照的に、走ることを「虚しい」と考える小宮。
だがトガシは「100mだけ速ければ全部解決する」という極めて単純なルールを引き合いに、小宮との真剣勝負を望んだ。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
そして前日に敗退した財津が現役引退を発表するなか、日本陸上の決勝がスタート。
小宮がいいスタートを切り、トガシが少し遅れて追う。
海棠と樺木がその後から続くなか、小宮とトガシがデッドヒートを繰り広げ、後半へ差し掛かる。
ふとトガシの脳裏には故障の不安がよぎるが、「今」に全てを注いで全力で踏み込み、加速してついに小宮を追い抜いた。
敗北がよぎるとともに、疲労が急にのしかかる小宮。
それでも心の奥底に眠っていた「勝ちたい」という気持ちに火が付き、小宮が珍しく闘志を剥き出しにした全力疾走でトガシに並ぶ。
「ひゃくえむ。新装版」2巻©講談社/魚豊
日本最高の舞台で全力疾走という真剣勝負を繰り広げたトガシと小宮。
ただ「走るのが好き」という幸福感に包まれながら、先にゴールラインに辿り着いたのは―。
【最終巻のまとめ】
部活対抗リレーは執念の走りを見せた仁神の活躍で陸上部が劇的勝利。
だがトガシはその後、彗星のごとく高校陸上界に現れた小宮にインターハイ決勝で敗れ、その後は伸び悩みながら平凡な陸上選手として企業と契約していた。
一方、小宮は高校時代にスランプを脱してから飛躍的な成長を遂げ、日本陸上界のエースに迫るまでになる。
そんななか、トガシは故障を抱えてクビを言い渡された際に陸上への情熱とあきらめきれない想いが込みあげ、復活。
そして日本陸上の決勝の舞台で、小宮を相手に最高の全力疾走で激闘を見せるのであった。
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参考100mの全力疾走に凝縮された狂気と情熱の青春ドラマ『ひゃくえむ。新装版』全2巻【ネタバレ注意】
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