泣き虫なMSW・犬飼と先輩の馬頭。
MSWの仕事は、患者が望んでいることを引き出し、そのために病院や社会に何ができるかを一緒に考え、サポートすること。
脳卒中で人の顔がわからない相貌失認となった患者に対しては、仕事を続けたいという本音を引き出し、会社訪問を行って復職をサポート。
アルコール依存症の患者に対しては、自分が依存症であることを認めることが第一歩であることを説明し、家族も巻き込みながら断酒会での治療を支援。
無年金で無保険ながら入院となった患者に対しては、家族とのわだかまりを解きながら生活保護を受けて治療を継続する決意を固めるのを見届けた。
潰瘍性大腸炎の患者が就職したいという思いに対して、食と排泄が密接に関係してくるこの病気に自らオムツを穿いて動き回り、患者がいなくなった時も探し出し、共に就活に向けてのトイレマップの作成や生理用品を使うことを提案。
無事、何社か内定を取ることができた。
乳がんを患う患者に対し、自分のボディイメージが崩れ苦しんでいる様子を見て、家族もまた患者を励まそうとする。
しかし、患者にとってはそれが重荷だった。
犬飼は患者に苦しいことも何もかも受け入れる、そのままでいいんですよ、と諭し患者を癒す。
圧迫骨折と認知症の疑いで入院してきた祖母と仕事に忙殺される息子、その孫2人。
孫の景都が家事や育児、介護を全て担うヤングケアラーだと気づいた犬飼は、景都に寄り添いながら、家族の中だけで抱え込まず自分たちを頼るよう諭し、家族ごと支えるのであった。
最終巻のあらすじを振り返ってみましょう。
目次
自分が知らない母
退院する患者を見送り、病院内に戻ろうとしていた犬飼は、何やら困った様子の女性の老人・来木道代と出会う。
慌てて駆け付けた息子・征史によると、道代を認知症の検査のために連れてきたようだ。
認知症にはいろいろな種類があり、病院によっては精神科や脳神経内科や外科など幅広い科で診ることとなる。
道代の検査の結果、アルツハイマー型認知症。
認知症の70%の人がかかるものだ。
完全な治療法はないものの、薬によって進行を遅らせることができる。
MSWが支援できることは、道代が安心して暮らしていけるにはどうしたらいいか、ということ。
一方、征史は家に帰ってからいつも通りの母との生活に戻ったかと思いきや、道代は「夜中に物音がする」「物がなくなる」などと頻繁に言い出した。
物音がするのは幻聴、物を失くすのはただの記憶の亡失であり、征史は真剣に取り合おうとしないが、挙げ句の果てには道代からは「あなたが盗ったの?」と疑われる始末。
道代はその日の記憶すら抜け落ちており、征史は道代が自分の知っている母親ではなくなってきていることにショックを受けるのだった。
追い詰められる息子
征史は仕事と母の介護を両立すべく奔走していたが、多忙すぎて仕事が手につかない。
道代は相変わらず、物がなくなった、ヘルパーさんが持って行ったのでは?と話すが、必ず物は見つかる。
精神的に疲れてしまった征史はある日、セーブしていた残業をしてすぐに家に帰ることをやめた。
介護よりも溜まっている仕事を片付けた方が気持ち的にも楽だったのである。
しかしその日、道代は夜中に転んで病院に運ばれてしまった。
自分が残業せずに帰っていれば…と動揺する征史は、犬飼に辛い胸の内をこぼすのだった。
人生のかけら、これからの人生
犬飼は征史に、道代が「物音がする」「泥棒が物を盗った」と話していた理由を推測する。
認知症は短期記憶は無くなってしまうが、長期記憶は残る事が多い。
そして道代は征史が赤ん坊の時、家に入ってきた泥棒を自ら退治した武勇伝を今の記憶と錯覚してしまっている可能性があったのだ。
犬飼が冷静に道代の話を聞くことができたのは、家族ではなく認知症になる前の本人を知らないからこそ。
今の母親に向き合うのは辛いことかもしれないが、どんなにその人が変わっても今までの人生の道のり全部含めてのその人なのである―。
犬飼は涙を流しながら、「あなたが覚えている道代さんを覚えていてください、あなたの中にあるのは道代さんの人生のかけらなんです」と語る。
こうして、犬飼の言葉で元気をもらった征史は、よりヘルパーさんやケアマネたちと連携し、より良い状態で生活を送れるようになったのだった。
ウソをつくのはなぜ
看護師・羽鳥が犬飼の元へ介入が必要と思われる患者がいると知らせてきた。
塩浜まゆ子、51歳。
大腿骨頸部骨折で手術、現在リハビリ中だ。
仕事に行く途中、自転車で転んでしまったというが、労災申請はしておらず、怪我によって会社をクビになったそうだ。
犬飼がまゆ子の代わりに会社に電話して聞いてみると、まゆ子はクビにはしていないと逆に驚かれてしまう。
犬飼は、解雇されていないなら休業補償が取れるのではと思いつくのだった。
ゴミ屋敷の片付け
犬飼はまゆ子の担当の理学療法士(PT)海老原と整形外科ローテ中の研修医・鯨井と共にまゆ子を担当することとなるが、まゆ子の家はとんでもないゴミ屋敷であることが発覚。
犬飼たちは訪問指導という形で家を片付け、ベッドを設置する手助けをすることに。
ゴミ屋敷には、高齢による体力の低下や認知症の問題、年齢が低くてもうつなどの精神疾患や病気、障がいからゴミ屋敷化してしまう事があるが、大きな共通点として「セルフ・ネグレクト」、つまり自己放任があり、まゆ子もこれに該当するのだった。
まゆ子の秘密が明らかに
まゆ子が再び細菌感染症を患って入院してきた。
悪化の原因は本人の抵抗力が弱まっている、傷口が不衛生な状態になっていることであり、原因はゴミ屋敷。
犬飼は皮膚科のローテに入っていた鯨井と話し合うが、今回はまゆ子本人がゴミ屋敷の片付けを拒否しているようだ。
犬飼は看護師から「まゆ子がずっと風呂に入っていない可能性がある」と聞いていたのを思い出し、まゆ子に「あの家の中に手放したくない物があるのでは」と聞いてみた。
すると、全て見透かされたと思ったまゆ子は、「犬飼さんなら教えてあげてもいいかな」と涙を流しながら心を開いてくれた。
まゆ子の家を片付ける日、まゆ子の部屋は壁一面アイドルのポスターが貼られており、しかも窓が割れていた。
その割れた窓から猫がひょっこりと顔を出す。
まゆ子が家を片付けたくなかった理由は、どうやら猫に餌を与えていることを知られたくなかったからだった。
本人はうまく説明できないし、理解してもらえないと信じ込んでいたようだ。
結局、猫はCSW(コミュニティーソーシャルワーカー)が地元の保護団体に繋いでくれ、家の中で飼える状態になったら手続きをすることで一件落着となるのだった。
ネットカフェ難民
犬飼が今度担当することとなったのは、ネットカフェで血を吐いて運ばれてきた32歳男性、虎尾彬。
虎尾はいわゆるネットカフェ難民・ホームレスであり、健康保険証もなく、住所もなく、連絡の取れる家族もいない。
胃潰瘍と初期の胃がんが発見されたが、家も治療費もないため、生活保護の申請をする運びとなった。
犬飼は虎尾に今後のスケジュールが書かれた紙を渡し、読んでおくように伝えたが、虎尾は犬飼の目の前でその紙をビリビリにしてしまう。
自分の過去について「なんでも喋りますよ」と明るく話す虎尾。
上京してから料理の仕事で食べていたが、潰れてしまい、なかなか仕事が見つからなかった。
そしてネカフェに住み着くようになり、日雇いの仕事などをしながら生きてきた。
最初に働いた店の店長が単発の仕事をくれたりして、荷物を預かってもらったりしているらしい。
それを聞いた犬飼は、繋がっている人がいるだけで安心、と伝える。
まともな仕事に就くには住所が必要だが、家を失ったホームレスは不安定な職業で働かざるを得ず、低賃金ゆえに家を借りることができないという負のスパイラル。
一度、ホームレスになるとそこからの脱却は難しいというのが、今の社会の現状なのだった。
グレーな人たち
犬飼と退院後の福祉事務所に行くことについて話をするが、虎尾には話を聞いている様子があまり見受けられず、病院の人全員を信用していないどころか挑発するような言葉を投げかける。
退院して1週間経っても福祉事務所に顔を出さない虎尾。
心配する犬飼に、馬頭は「私たちができることはただ一つ。患者に選択肢を示すことだ、患者自身が選べなくて苦しんでいるなら一緒に苦しむ。何かを選んだ時は全力で支えるんだ」とアドバイスを送る。
一方、ヒロシという男の紹介でしたグレーな仕事の稼ぎをネットカフェで出会ったミクという彼女に預けており、その金のことで電話をかける。
だがヒロシが電話に出たうえ、虎尾に生活保護を受けながら自分の管理下に入るように命令してきた。
ヒロシを慕い、一緒に仕事をしたいと思っていた虎尾は裏切られたことを悟って絶望の淵に立ち、気を紛らわせるために一晩中街を徘徊するのだった。
虎尾の隠された障がい
犬飼の言葉がふと頭をよぎった虎尾は福祉事務所に顔を出すが、すぐに出ていってしまう。
その虎尾が来たという連絡を受けた犬飼は、虎尾の気持ちに少しでも近づくために自分も一晩中徘徊し、ホームレスの孤独を体感。
そして、翌日病院に行くと、そこには虎尾の姿が。
逃げる虎尾だったが、疲れから体力もなく、すぐに捕まった。
犬飼は思い切って虎尾が「学習障がいなのでは?」と疑問をぶつけてみた。
明るく話したり、福祉事務所に行かないのも虎尾が身につけた処世術ではないかと。
寄り添ってくれる犬飼に対しても虎尾は「俺みたいなクズを助けて何になるの?」と突っぱね、挑発。
だが犬飼は「MSWは患者さんの選択肢を模索する仕事です。僕自身にも選択肢はある、あなたに対して何もしない選択肢は取らない」と宣言する。
こうして犬飼の説得によって、虎尾は生活保護を受けることになり、住まいを見つけて社会と繋がる事ができたのだった。
【3巻(完)のまとめ】
認知症を発症してしまった母を持つ息子。
徐々に別人のようになっていく母に対する息子の苦悩と、母の心の奥深くに残る記憶に寄り添い支えた。
セルフネグレクトで自宅もゴミ屋敷にしてしまう女性患者に対しては、女性には手放したくない物があるということを見破り、ゴミ屋敷も片付ける事ができた。
胃潰瘍と初期の胃がんでネットカフェで血を吐き、運ばれてきたホームレスの青年。
ホームレスになると抜け出せない負のスパイラルから救うべく、どんな嫌味を言われてもどこまでも患者に寄り添ってこれからの選択肢を一緒に考えるのであった。
この漫画をもう一度読みたい方はこちら
全巻まとめに戻る
-
-
参考患者の本当の望みは何か?社会福祉から患者を支える医療ソーシャルワーカーに焦点を当てた医療ドラマ『ビターエンドロール』全3巻【ネタバレ注意】
続きを見る