父の開業医としての苦労を見て金儲けができる医者になることを志し、研修医として病院で働く赤城。
しかし、厳しい研修生活の中で激務と薄給に直面し、さらに患者の対応で自己の限界を感じる。
高齢患者の救命措置を巡っては家族を果てのない看護生活に巻き込まないために無理に延命すべきでないという考え方があることを知り、自身の医者としての在り方について考える。
また、日本医療では医師はどんなに腕がよくとも給料がほとんど変わらず、患者全員にまるで王様のような治療をしなければならない。
医師としての給料が変わらないシステムのなかで、果たして自分はどんな患者でも助けるために全力を尽くせるのか。
その一方で、医師が自分の腕に応じて報酬がもらえるのなら、それはいったいいくらが適正なのか。
赤城は医師としての自分の信念を探すことになるのであった。
2巻のあらすじを振り返ってみましょう。
目次
最期まで回復を願う家族の気持ちを踏みにじるモノ
腹膜転移癌を抱える宮畑優里という若い女性の入院患者を受け持つこととなった誠一。
優里の夫はどうにかして妻に回復してもらいたいと、病室のベッド際には溢れんばかりの長寿祈願のお守りなどがある。
だが悪いことに優里の癌は原発(最初に発生した場所)不明のため標準治療ができず、抗がん剤もさほど効果が出なかったために緩和ケアに徹する治療方針となっていた。
癌性腹水を排出するために穿刺など対応する誠一だが、夫は事細かに妻に施された治療を観察している。
妻は自分がもうすぐ死ぬことを悟り始めていたが、夫は一度は余命3ヶ月と言われた妻が4か月経っても生きながらえていることから、このまま快方に向かうのではと淡い期待を抱いていたが、誠一に諭されてようやく妻が助からないことを実感。
夫にできるのは、妻といられる時間を後悔のないように過ごすこと。
だがついに優里は弱っていき、1週間後にはついに昏睡状態に陥ってしまう。
亡くなった後のことも視野に入れながら処置を続ける誠一。
だが夫はまだ藁にも縋る想いからか、通信販売で買った詐欺まがいの健康器具をいじってまで妻の快復を祈る。
「王の病室」2巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳
無意味と分かっていながら誠一はその器具の調整を請け負い、夫には「少しでも長く奥さんのそばにいてあげてください」と声をかけた。
健康器具の中身はパソコンの冷却用のファンを取りつけただけのちゃちなものであり、患者の家族を踏みにじるような詐欺商品を売りつける者への激しい怒りが沸きあがっていく。
その一方、夫は最後に薄く意識を取り戻した優里と最後の会話を交わし、優里は亡くなった。
夫からの「ありがとうございました」という言葉に誠一は違和感を覚える。
力になれず患者が亡くなったにもかかわらず、医師たちに最後にお礼をいう遺族は驚くほど多い。
単なる言葉のやり取りなのか、それともどのような想いから来る言葉なのか。
医師の立場になった誠一には、もうその言葉を送る遺族の純粋な気持ちを知る術はない。
そして、詐欺商品を買ってまで最愛の人の快復を祈った遺族を見て、もし自分が名医として唯一その患者を治すことができたら、その腕で際限なく搾取できてしまうかもしれないと、改めて名医の価値について考えさせられるのであった。
「王の病室」2巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳
本物のVIP患者を担当することに
夜間対応においては、最も若い者が有事の際に真っ先に駆け付けて対応しなければならない。
病棟からの緊急コールは軽症のものが大半だが、それでも重症であるかもしれない可能性を踏まえて全てに対応する必要がある。
だが、その対応は仕事の範囲内であり、手当などは発生しない文字通りのただ働きである。
さらに、その後数年で働き方改革の波によって研修医の時間外労働にも制限が加わることとなり、誠一は研修期間が終わっても当分は自分が最初に呼ばれる立場のままであることをこの時はまだ知る由もなかった。
そんな寝不足で迎えたある日、誠一は高野に連れられてあるVIP患者を受け持つこととなる。
患者の名前は庭瀬 善次郎、某有名電機メーカーの会長で、肺がんの放射線化学療法のために入院している。
どんな患者でも提供される医療サービスの質に差はないはず、だが誠一は「VIPだからこそいい治療を受けられないこともある」というギャップを体感することになるのであった。
「王の病室」2巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳
医師の話より自分の判断を信じる患者
庭瀬の病室には側近や愛人は足を運ぶものの、一人の人間として本当に慕って心配してくれるような家族や部下はほとんどいない様子。
自分の経歴や功績の自慢話ばかりで家族の写真ひとつ飾っていないような寂しい老人だったのである。
そんな庭瀬の荷物の中に優里のときと同じ詐欺商品のパンフレットを見つけた誠一はすぐに注意喚起するが、庭瀬は詐欺とわかったうえで知人の紹介を無下にしないためにパンフレットを保管しているのだという。
正常な判断ができていると誠一が安心するのも束の間、庭瀬はどこで吹き込まれたのか「アスコルビ茸」という謎の食材が癌の特効薬だと信じ切っているようだった。
「王の病室」2巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳
医師たちが提案する治療は全ての患者に平等なもの。
しかし現代の医療においては「インフォームドコンセント(説明と同意)」が原則であり、患者の意思と判断を優先するがゆえに、自分の判断に過剰な自信を持つVIP患者の場合は誤った情報により適正な治療が受けられない現象が起きてしまうのである。
病院側もVIP患者の機嫌を損ねるのは損失でしかないため強くは否定はしない。
誠一は主治医の高野以外は使用人かのように扱い全く耳を貸さない庭瀬にどう対処するか、頭を悩ませるのであった。
根気よく接して説得することに成功
VIP病棟主任の師長である大沢からアドバイスをもらい、さらに病室にいた側近と愛人が実はグルになって庭瀬に詐欺商品を押し付けるなど陥れようとしていたことを知った誠一は、研修医として庭瀬に寄り添いながら適切な治療を受けるように説得することを決意する。
誠一は庭瀬が敬遠する抗がん剤治療についての正しい情報や医師としての高野への信頼を口にしつつ、「もう一度高野先生の話を聞いてみてください」と告げる。
「王の病室」2巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳
始めて耳を傾けた庭瀬は高野の話を聞き、結果的に嫌がっていた抗がん剤による化学療法を受けることに同意。
高野は誠一に対し、研修医の本分は勉強することであり、患者のワガママに付き合うことではないと釘を刺しつつも、厳しい言葉のかげで誠一による説得は「成功」と評価しているのであった。
当直対応で大ピンチに…
ある日の当直、誠一は消化器内科の前園と組むことに。
医師本人にはどうすることもできない天賦の才として、「重症患者を引くかどうかの運の良さ」があるが、前園はどうやら神がかり的に「引かない」医者だともっぱらの噂。
今日の当直は寝られるかも…と期待する誠一は、すぐにその真相を知ることとなる。
前園は自分の腕が医師としてポンコツであることを自覚し、「急患は自分の手に負えない」という本音を隠して救急搬送依頼を体よく断りまくっていたのである。
「王の病室」2巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳
そんな前園は見習わないようにしようと思いつつ、今度は喘息症状を訴える患者の救急搬送依頼が入る。
喘息発作くらいなら自分でも何回か経験済、と誠一が申し出たことで搬送依頼を受けることとなった。
だが、搬送されてきた患者の喘息症状は通常よりは遥かに重く、ほとんど呼吸もままならない状態だった。
「王の病室」2巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳
「喘息発作くらいなら」と考えた自分の甘さを痛感しながら、誠一は自分が適切な処置をしなければこの患者を死なせてしまうかもしれないという極度のプレッシャーに襲われることになるのであった。
【2巻のまとめ】
愛する人の回復を最期まで願うが故に詐欺まがいの健康器具にまで手を出してしまう家族を目の当たりにし、自分が名医でその唯一その命を助けることができたら際限なく搾取できてしまうかもしれないと、改めて名医の価値を考えさせられる赤城。
そして本物のVIP患者である庭瀬を担当することとなると、自分の判断に絶対の自信を持ち聞く耳を持たない庭瀬に頭を悩ませつつも、真摯に対応して医師の勧める治療を受けるように説得することができた。
だがある日の当直対応では、安易な気持ちで引き受けた急患が命の危機に瀕するほど重度の喘息を抱えており、適切な処置をしなければこの患者を死なせてしまうかもしれないという極度のプレッシャーに襲われることになるのであった。
次巻へ続きます。
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