殺人ウイルスの感染拡大、人身売買事件、そして遺伝子診断会社の役員の事故死――。医療事件や扱いが難しい事件を調査する、内閣情報室の健康危機管理部門。アドバイザーを務める義手で天才、変わり者の寄生虫専門家・紐倉 哲が、事件解決のために奔走する!前作『ネメシスの杖』で、圧倒的な読み応えと緻密なミステリ・サスペンス描写が話題を呼んだ意欲作!
(U-NEXT作品紹介文より引用)
さっそく、1巻のあらすじを振り返ってみましょう。
目次
シャーガス病の感染に隠ぺい疑惑が浮上
病院の医療事故について、患者安全委員会として調査を担当する阿里はイライラしていた。
本来は事故の原因がどこにあったのかを突き止め再発防止につなげるのが委員会の役目だが、裁判で不利に働くことを恐れて当事者たちは口をつぐんでしまっており、システムとしての欠陥が浮き彫りになっているからである。
そんな阿里のもとに、台田総合病院には「『シャーガス病』を罹患している患者がいることを把握していながらカルテを改ざんしている」というタレコミが入り、調査することに。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
シャーガス病はトリパノソーマという寄生虫が原因の感染症で、16年前に日本でも少し話題になった病気。
早速病院へと足を運んだ阿里だが、病院側はやはり調査には非協力的であり、担当医師はみな不在だという。
代わりに「桶矢 登」という入院患者のカルテを要求すると、ちょうどエマージェンシーコールで桶矢の容体が急変し亡くなってしまった。
桶矢の片目には特徴的な浮腫があり、シャーガス病の急性症状にも合致する兆候があったが、それだけではシャーガス病とは断定できない。
関係者から証拠を収集し始める阿里。
だが黒野院長が医政局の倉井に圧力をかけ、患者安全委員会の網野室長は捜査の中止と隠ぺいを指示せざるを得なくなるのであった。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
紐倉が捜査の協力に
納得できない阿里は独自に調査を続けることにし、網野室長も阿里の行動を黙認。
阿里は大学の教授の伝手を頼って寄生虫の専門家を紹介してもらえないか相談すると、ちょうど1人だけ、日本でリハビリしている研究者がいるという。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
その紹介された研究者こそ、かゆみ止め薬に関する特許で莫大な財産を築いた紐倉だった。
紐倉は右腕が義手になったばかりであり、事件の調査と聞くと表情を曇らせつつも、シャーガス病の疑いのあるサンプルに興味を示し協力することに。
紐倉が顕微鏡で見ると、サンプルにはやはりシャーガス病の原因となるトリパノソーマの原虫が確認された。
そしてサンプルの提供元である桶矢が16年前にトリパノソーマをばらまいてシャーガス食害事件を起こした桶矢食品の関係者であったことも判明するのだった。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
過去のシャーガス食害事件にライトが当たる
16年前のシャーガス食害事件の原因はジュースによるもの。
阿里は当時の事件に関する膨大な資料を紐倉からもらうが、紐倉は医療事故の調査には関わりたくないとして協力を辞退した。
資料を手に網野室長に報告しに行くと、網野室長も部下の入江と2人で16年前のシャーガス食害事件の資料を探っていたところだった。
桶矢食品の親会社であるヒノワボトリングがアレルギー症状を緩和するジュースとして「チチクチジュース」を発売し、CMも放映。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
厚労省のトクホ認定も受けていたジュースだが、結果としてジュースの原材料であるチチクチの実が原因となってシャーガス食害事件が発生した。
事件が明るみになると桶矢食品のずさんな管理体制に問題があったとして猛バッシングが起き、シャーガス病になったと認定された患者51人のうち7名が死亡。
シャーガス病は慢性期になると症状が表れにくく感染者はまだいる可能性がある一方で、慢性期になると治療法は存在しない。
そしてこのタイミングで桶矢食品の社長だった桶矢がシャーガス病の急性症状で亡くなったことを踏まえると、食害事件との関連が濃厚。
だが当時チチクチジュースがトクホ認定を受けたときには、いま医政局の局長で最も事務次官に近いと言われる倉井も総括課長補佐として関わっていたことも判明する。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
網野室長たちは倉井に目を付けられるとわかっていながらも、国内に新たな感染者が出る可能性が出れば事件を隠ぺいすることは不可能と判断し、調査の継続を決めるのであった。
勇気ある内部告発
桶矢の妻から口述聴取した阿里は「もう事件のことは放っておいてほしい」と言われるが、「同じような事故を起こさない社会を作るまでは何にも終わらない」と返す。
桶矢の妻は夫がシャーガス病にかかっていたことに気付いていたのではないかと感じていると、ちょうど台田総合病院の関係者から阿里のもとへ告発の連絡も届いた。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
阿里を指名した告発主は、桶矢の主治医でサンプルなども提供した医師の松山。
松山は桶矢の他にも小泉鈴子、宗森秀一という患者がシャーガス病かもしれないと訴えて診察に来ていたこと、そしていずれも検査を望まなかったことを明かす。
そしてどう考えても怪しい3人の患者、その共通点は黒野院長の紹介だった。
松山は以前勤めていた病院でも仲間を裏切って内部告発したことがあり、この先自分は医局で肩身の狭い思いをするかクビになるかだと肩を落とす。
だが正しいことをしようとする阿里を応援するため、内部告発に踏み切った。
松山は阿里に怪しい患者のカルテなどの資料を託すとともに、「君の仕事はきっと上手くいかない。だから覚悟が必要なんだ」とアドバイスするのだった。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
シャーガス病の感染容疑者
阿里はカルテの分析のため、再び紐倉を頼ることに。
紐倉が興味のありそうな手土産として寄生虫に侵された犬を連れていくと、紐倉は喜んで話を聞き、その一日だけ調査に協力することに。
医療事故の調査には慣れている紐倉だが、右腕が義手になってから初めて外出するらしく、どこか緊張しているようでもあった。
小泉の自宅は数日前から留守にしているようで、大学教授である宗森の講義に潜入した阿里と紐倉は、宗森が手の震えでチョークを落としてしまう様子を目撃。
すると捜査のためなら多少の非合法な行為も厭わない紐倉は教室を出て、宗森の研究室をピッキングして侵入する。
シャーガス病は急性期に薬をガンガン投薬してトリパノソーマを殺せば治すことができる。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
そして紐倉は宗森の机からその薬のビンを発見、さらにPCの履歴から通販サイトでその薬を買ったことも突き止めた。
購入履歴から判断するに、宗森がシャーガス病に気付いたのは約3週間前なのであった。
犠牲者リストに名前のない男
宗森は16年前、チチクチの実がアレルギーに効くという論文を執筆していた。
つまり現在の感染者や隠ぺいを図る者たちは皆、当時のシャーガス食害事件の関係者である可能性がある。
阿里は宗森から直接聴取すべきだと考えるが、紐倉は宗森から倉井へ捜査の情報が洩れれば今度こそこの捜査が潰されてしまうと諭された。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
正しい手順でシステムの欠陥を明らかにしても、今の組織にはその欠陥を改善することもできない―。
憤りと諦めを抱えた阿里は今回は仕方なく紐倉のやり方に合わせて動くことに。
2人はシャーガス食害事件の原告側の弁護士を務めていた曽我の事務所を訪れて当時の膨大な資料を当たり、その中で娘を食害事件で亡くした江里口 新という人物に注目する。
だが食害事件の死亡者リストに「江里口」という名前はなく、それは江里口の娘の死がシャーガス病によるものと認定されなかった可能性を示唆しているのだった。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
犯人を特定、その動機とは
2人で江里口に話を聞きに行くと、江里口は全てに絶望して何もこちらに期待していないかのように見える。
江里口の娘の死は、自宅から飛び降りて自ら命を絶ったもの。
遺書には「私は生きている価値がない」など悲痛な胸の内が書き残されていた。
全ての原因は、アレルギーが治るというチチクチジュースを紹介する健康番組だった。
小泉鈴子はその番組のチーフディレクターとして関与、解説には宗森が協力しており、根拠となる論文をよく精査すればジュースの効果には大きな疑問が残るものだが、厚労省がトクホ認定したということは何者かが研究費をばら撒いていい結果のみを発表させた疑いもある。
そしてそれはおそらくはヒノワボトリングの仕業。
この番組の後にチチクチジュースはバカ売れし、小さな会社だった桶矢食品は相次ぐ増産に対応しきれず管理体制が甘くなった。
そして元々重度のアトピーに悩んでいた江里口の娘もチチクチジュースを買った結果、トリパノソーマに寄生されてしまう。
江里口の娘はアトピーのせいでいじめにあい、さらにチチクチジュースを飲んだ後からはシャーガス病の症状からくる倦怠感や発熱で学校を休みがちになり、最後には自ら命を絶ってしまったのだという。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
江里口はこれまで何度もこの話をしてきたそうだが、もはや涙も枯れ、娘の死に対するやりきれない怒りだけが残った。
チチクチジュースの販売に関わった奴らは罰を受けるべきだ、警察や官僚、マスコミには何度も話をしたが誰も何もしない、と語る江里口。
阿里は自分は必ずやるべきことをするが、江里口の期待には沿えないことを告げると、江里口は少し肩を落として阿里と紐倉を帰した。
紐倉は江里口が私的な復讐としてトリパノソーマをばら撒いていると推理。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
だがここで阿里は網野室長や入江から何度も着信が入っていたことに気付き、霞ヶ関へ急行することになるのだった。
上層部では隠ぺい工作が進むが…
網野室長らが知らないうちに倉井が患者安全委員会の臨時会合を招集し、倉井と黒田院長がでっちあげた調査結果で事件の幕引きを図ろうとしていた。
結果報告書には松山医師が桶矢登の血液サンプルをすり替え、桶矢登はトリパノソーマに感染していなかったという記載が。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
連絡を受け怒り心頭の阿里は自ら会合に乗り込もうとするが、既に会合は閉会した後。
そして会議室から出てきた倉井から、来週から小樽への異動を告げられてしまう。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
一方、紐倉は霞ヶ関に勤める旧友の時田に会いに行くことに。
公安調査庁の時田へ個人的な依頼として、トリパノソーマを殺すことのできる薬をここ半年で購入した日本人のリストを調べてもらう。
義手が痛み出した紐倉は結果が出る前に先に自宅へ。
阿里は紐倉からの協力も今日限りの約束だったのだと感じ、呆然とするほかない。
だが事件はまだ終わっていなかった。
江里口がタクシー運転手として倉井を待ち伏せしており、油断しきっている倉井をまんまと車のなかに迎え入れ、トリパノソーマ入りの液体を吹きかけて感染させるのだった。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
犯人の切なる想い
翌朝、自宅待機を命じられた阿里は病院から犯人扱いされて解雇された松山から電話で励まされ、最後まで粘る決意を固める。
再び紐倉に協力を依頼して頭を下げると、紐倉も阿里に手を貸すことに。
紐倉は時田からもらった薬の購入者リストを提供すると、購入者全員がシャーガス食害事件の関係者であったことが判明する。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
これだけ証拠が揃えば、今回の事件はバイオテロであることを立証できる―。
すぐに網野室長へ報告し、対策チームの立ち上げ準備を依頼しつつ、倉井もターゲットになっている可能性について警鐘を鳴らす阿里。
しかし既に倉井は体調不良で休んでおり、またタクシー運転手として江里口が今度は阿里を待ち伏せしていた。
阿里は警戒しつつ、江里口の誘いに応じてタクシーに乗り込む。
強い復讐心のもとターゲットを絞り込んでいる江里口に、食害事件とは直接関係のない自分が狙われる確率は低いと踏んだからである。
車の中で江里口は、何も行動を起こさなかった者たちへの怒りと復讐心を口にすると、阿里は人間の愚かさに罰を与えるのではなく、システムによって過ちを防ぐべきと主張。
自首を勧める阿里に対し、江里口は「全部終わるまであと1日待ってほしい」と告げ、亡き娘への想いをこぼす。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
娘を失くした父の気持ちを知った阿里の目には思わず涙が溢れ、それ以上江里口にかける言葉が見当たらないのであった。
ターゲットたちの関連が明らかに
頭の中ではシステムによる是正が正しいと信じていても、心では江里口が復讐に駆られる気持ちが痛いほど理解できてしまう阿里は、どちらが正しいのか迷いが生じていた。
そんな阿里のもとを紐倉が訪ね、「両方ともそこそこ正しい」と客観的な意見を伝え、二者択一ではなく2つの理論はもっと高め合うべきだと励まされる。
そして2人は、亡き桶矢の妻に呼ばれ、ある物を見せられる。
それはバイオテロ事件の犯人である江里口がトリパノソーマを使って桶矢を拷問しているビデオだった。
懺悔を口にする桶矢だが、江里口は通報や治療をすればこのビデオを表沙汰にすると脅し、お世話になったヒノワボトリングや倉井に迷惑をかけまいとして桶矢はこの被害を訴え出ることはなかった。
阿里は網野室長にこのビデオを渡すと、網野室長はバイオテロ対策チームが正式に発足するには時間がかかることから、阿里が自ら江里口の凶行を止めに行くのを黙認。
阿里と紐倉は江里口の自宅の隣りの小屋でトリパノソーマの培養のための設備やこれまで感染させたターゲットの拷問ビデオなどを発見。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
シャーガス病による死亡率は5%程度であるため、これらの被害者たちは食害事件の真相に脚光が浴びることよりも、自分が死なない可能性に賭けて誰も被害を口にすることは無かったようだ。
そして黒野院長がヒノワボトリングの娘と結婚したことを利用し、台田総合病院で秘密裏に治療しようとしていたというのが真相。
阿里と紐倉は江里口のパソコンから、最後のターゲットがヒノワボトリングの会長であることを突き止め、ヒノワボトリングの本社へと急行するのだった。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
事件解決
阿里がヒノワボトリングの役員室へと急行する一方、江里口は清掃員に扮して一足先にヒノワボトリングの会長にトリパノソーマ入りの液体を突きつける。
会長が土下座して江里口に謝罪すると、手を止める江里口。
そこに阿里が駆け付けた。
阿里の説得によって江里口は涙を飲みながら突きつけた液体を持つ腕を下ろし、江里口の凶行は阻止された。
「インハンド プロローグ」1巻©講談社/朱戸アオ
江里口は逮捕され、阿里の左遷も取消に。
また紐倉はロンドンにまで足を伸ばすほど元気になった。
そして阿里はまた、いつも通り元気に別の調査案件に乗り出すのであった。
【1巻のまとめ】
台田総合病院には「『シャーガス病』を罹患している患者がいることを把握していながらカルテを改ざんしている」というタレコミが入り、調査することになった患者安全委員会の阿里は、専門家として紐倉に協力を依頼する。
なぜ感染者のカルテは隠ぺいされ、感染している者も名乗りを上げなかったのか―。
紐倉と阿里はその謎を追ううちに、これが16年前に起きた食害事件で娘を無くしたある男の怒りによる復讐のバイオテロであったことを突き止め、事件を解決に導くのだった。
次巻へ続きます。
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