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患者の命と意思のどちらを優先すべきか?他人の命に口を出す本当の恐ろしさを知った赤城の決意は…『王の病室』3巻(完)【ネタバレ注意】

講談社/灰吹ジジ・中西淳
~前巻までのあらすじ~

父の開業医としての苦労を見て金儲けができる医者になることを志し、研修医として病院で働く赤城。

しかし、厳しい研修生活の中で激務と薄給に直面し、さらに患者の対応で自己の限界を感じる。

高齢患者の救命措置を巡っては家族を果てのない看護生活に巻き込まないために無理に延命すべきでないという考え方があることを知り、自身の医者としての在り方について考える。

また、日本医療では医師はどんなに腕がよくとも給料がほとんど変わらず、患者全員にまるで王様のような治療をしなければならない。

医師としての給料が変わらないシステムのなかで、果たして自分はどんな患者でも助けるために全力を尽くせるのか。

その一方で、医師が自分の腕に応じて報酬がもらえるのなら、それはいったいいくらが適正なのか、赤城は医師としての自分の信念を探すことになる。

その後、愛する人の回復を最期まで願うが故に詐欺まがいの健康器具にまで手を出してしまう家族を目の当たりにし、自分が名医でその唯一その命を助けることができたら際限なく搾取できてしまうかもしれないと、改めて名医の価値を考えさせられる赤城。

そして本物のVIP患者である庭瀬を担当することとなると、自分の判断に絶対の自信を持ち聞く耳を持たない庭瀬に頭を悩ませつつも、真摯に対応して医師の勧める治療を受けるように説得することができた。

だがある日の当直対応では、安易な気持ちで引き受けた急患が命の危機に瀕するほど重度の喘息を抱えており、適切な処置をしなければこの患者を死なせてしまうかもしれないという極度のプレッシャーに襲われることになるのであった。

最終巻のあらすじを振り返ってみましょう。

重度の喘息に苦しんできた患者の半生

搬送されてきたのは重度の喘息を持つ池田紀子という患者であり、前園が高野に電話で聞くなどしながらなんとか対応することができた。

赤城はそのまま入院の手続きを進めようとするが、紀子はステロイドの投薬を拒否し、そのまま帰ろうとする。

紀子の母によれば、紀子は小児喘息持ちでずっと喘息に苦しんできており、経口のステロイドを苦にして通院を中断、その後はクリニックを転々として吸入などしていたらしい。

ステロイドは副作用が多いものの、使わなければそれ以上の難事になるためー。

高野はそう教えつつ、紀子の前の主治医から提供される情報を見て判断することを指示する。

そして赤城のもとには膨大な資料が届き、10回を超える入退院とともに歩んできた紀子の半生を知ることに。

「王の病室」3巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳

難治性の小児喘息を発症した紀子は、学校のみんなと同じように遊ぶこともできないまま育ち、どんなに気を付けて生活しても入院、落ち着いてステロイドを減らすと再発というループを繰り返してきた。

それでも女手一つで自分を看護し続けてくれる母に報いるため勉強だけは頑張ったが、惜しくも大学受験も不合格となり、喘息に自分の時間を奪われてきたことにやりきれない思いを抱える。

浪人する経済的な余裕もなく就職したが、職場の同僚は重度の喘息に理解がなく、ステロイド投薬による肥満やムーンフェイスを「デブ」、療養による休暇も「サボっている」などと揶揄されてしまう。

「王の病室」3巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳

これはツラい…
管理人

そしてステロイドの投薬を拒否してからは以前のような痩せた体型に戻り、自分にかけられた呪いが解けたかのような喜びに包まれたのも束の間。

大発作を起こして赤城のもとへ搬送されてきたのであった。

新薬での治療に希望の光が差すが…

ここでステロイドを再び投薬しなければまた命に関わる事態となりかねないが、投薬すれば紀子はまた肥満に戻ってしまうだろう。

どうすれば紀子を本当の意味で治してあげられるのか悩む赤城のもとに、ちょうど製薬会社コルトス・ファーマのMRである鳥居塚が売り出し始めた喘息治療の注射薬の紹介に来た。

資料を見る限りではその新薬ならステロイドの量を減らしつつ治療できる可能性がある。

だが紀子に紹介するにあたって最もハードルが高いのは、患者の経済的な負担、つまりその薬の値段だった。

「王の病室」3巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳

薬価は月額18万もするもので、保険による自己負担で考えても月6万ほどにもなる。

払えるわけないと憤慨する紀子だが、その場は母親が自ら支払うことを承諾し、無事に治療へと進み始める。

本当は紀子が途中で通院を中断していなければ自治体の助成金制度なども活用できたのだが、社会保障が行き届かないケースがあることを赤城は学ぶのであった。

医師になったことを後悔する同期

ある日、赤城は同期の神代から合コンの代理参加を頼まれ、意気揚々と望む。

だが裕福な家庭に育ちスポーツも万能で容姿端麗な神代の代わりが務まるはずもなく、結果は散々なものだった。

結局自分は医師になってもモテないままと落胆しながら赤城が病院へ戻ると、そこには顔の左半分が痛々しくはれ上がった神代がいた。

どうやら神代は搬送されてきた急患への対応時に酔って暴れた急患にボコボコに殴られたのだという。

「王の病室」3巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳

患者を治すために治療を施すのが医師の仕事なのに、こんな悪人に理不尽な仕打ちを受けるくらいなら医師になどならなければ良かったー。

そう打ち明けた神代に、赤城は「頑張って治療して良かったことがあったら真っ先に話すよ」と声をかけ、慰めるのであった。

VIP患者庭瀬からの謝礼

金儲けがしたくて医師になったが、今の環境では腕を磨いても給料は変わらず金儲けどころではない。

かといって開業しても名医だからといって必ず儲かるわけでもなく、結局は経営の勉強も必要。

そこで赤城はビジネスマンとして上り詰めた庭瀬にビジネスの極意について質問してみることにした。

すると庭瀬は国民皆保険制度があるが故に医療業界はモノプソニー(買い手独占)が成立していると分析し、価格設定も厚労省に握られているために医療は金儲けに向かないと断言する。

意見交換の末にやはり「つくづくキミは金儲けに向いてなさそうだ」とまで言われてしまった。

だが庭瀬は退院の際に感謝のしるしとして赤城に値段の書いていない小切手を渡す。

「王の病室」3巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳

果たしていくら書くのが正解…?
管理人

それはつまり、赤城が庭瀬に好きな額だけ料金を請求していいということを意味しているのであった。

名医を目指して

いったい自分はいくらもらうべきなのか。

他の先生に聞いても、治療の成否が後になって判明するケースなども考慮すると謝礼はもらっても後ろめたくなるだけで、もらわない人も多いという。

そんなおり、庭瀬が意識障害で再び救急搬送されてきてしまった。

前園とともに診療したところ、髄膜炎の可能性が高いが、確定するためには腰椎穿刺するしかない。

赤城も前園も腰椎穿刺の経験はほぼないが、一刻も早い診断が求められる状況。

「王の病室」3巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳

赤城は勇気を出して自らトライすることに決め、手探りながらもなんとか成功させた。

そして庭瀬が最も致死率の高い細菌性髄膜炎であることを突き止める。

翌日、高野は赤城の迅速な判断と適切な措置について褒めるが、赤城は庭瀬に施した免疫抑制の化学療法のせいでこうなってしまったことに後悔を抱えていた。

そんな赤城に高野は、最善を尽くしたその先に「祈り」の領域があること、そしてそれゆえに他人の命に口を出す医療という行為は本当は恐ろしいものなのだと説く。

「王の病室」3巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳

今は赤城はまだ研修医。

これから多くの痛みを知り、それを糧に知識と技術を得ていくことで、恐れを超えて自分の信じる最善に自信を持てるときが来るはずー。

幸いにもその後庭瀬は意識を回復し、赤城は「謝礼は受け取れない」といって空の小切手を帰す。

すると庭瀬は赤城はやはり金儲けには向いていないと笑いつつも、「キミはきっと名医に向いているよ」と声をかけた。

「王の病室」3巻©講談社/灰吹ジジ・中西淳

その言葉で赤城は名医を目指す決心が固まるのであった。

【3巻(完)のまとめ】

ステロイド投薬の副作用に悩む重度の喘息患者の半生を知り、投薬をして命を繋ぐことが果たしてこの患者を本当の意味で救うことになるのか悩む赤城。

新薬の登場によってその患者は治療への目途が立ったものの、高額な薬価による経済的な負担、そして社会保障が行き届かないケースがあることを学んだ。

そして以前説得したVIP患者の庭瀬からは謝礼としてブランクの小切手を渡されるが、その庭瀬の容体が急変。

必死の措置のおかげで助かったものの、自分の勧めた治療のせいで予期せぬ展開となったことを後悔し、他人の命を扱う仕事の本当の恐ろしさを知る。

それでもこれから多くの痛みを知り、それを糧に知識と技術を得ていくことで、恐れを超えて自分の信じる最善に自信を持てるときが来るはずー。

庭瀬に背中を押され、赤城は金儲けよりも名医を目指す決意を固めるのであった。

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