横須賀北高校に転校してきた森 文太郎は根暗で周囲を拒絶していたが、山岳部の宮本に絡まれたことをきっかけに命綱なしで校舎をよじ登り、それ以来登山にハマっていくこととなる。
顧問であり自身も日本有数のクライマーでもある大西先生は単独で命を投げ出すような危険な登り方をしたがる文太郎を気にかけ、登山の基礎や技術を教えながらインドアクライミングの大会に文太郎を出場させた。
そこで文太郎は初心者ながらも見事なクライミングを見せる。
しかし登るのに夢中になるあまり、コンペのルールでもある「カラピナに命綱となるロープを通す」という手順を無視したことで文太郎は失格に。
まるでソロクライマーのような振る舞いを見せた文太郎に会場や大西先生らが驚きを隠せない一方、窓の外にぶら下がりながら観戦していたある原という若者も文太郎に興味を持ち、文太郎は誰にも命を預けず、1人で登るソロクライマーとしての生き方を知った。
以前いた高校ではクラスメイトの自殺現場に居合わせたことから殻にこもるようになったという過去も明かされる一方、正式に発足したクライミング部の活動を通じて徐々に人としても変わり始める文太郎。
ところが双子山での活動時に夕実が滑落してしまい、文太郎は夕実を助けたものの、命綱なしで難易度の高い崖をよじ登り、その一部始終をフリーライターの黒沢によって暴露されてしまう。
クライミング部は世間から叩かれて炎上し無期限の活動休止。
一方、文太郎の活躍をさらなるスクープとして売りたい黒沢は文太郎に「雪山は下界の汚いこと、やな事全部真っ白に洗い流してくれる」などと唆しながら八ヶ岳の主峰・赤岳のアイスクライミングを勧める。
活動休止について責任を感じる文太郎の頭から、黒沢の言葉が離れないのであった。
3巻のあらすじを振り返ってみましょう。
目次
黒沢は大西先生の先輩だった
大西先生は炎上のきっかけとなった黒沢に記事の訂正と謝罪を求める。
黒沢は山岳部の先輩であり、大西先生にとっては当時から確執のある相手だった。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
熱血漢の大西先生とは対照的に、腹黒い黒沢は訂正にも謝罪にも応じず、また文太郎を唆して八ヶ岳のアイスクライミングの準備を水面下で進めるのだった。
八ヶ岳にいち早く辿り着いた文太郎
八ヶ岳の山荘の宿泊予約が取れ、その当日。
いてもたってもいられなかった文太郎は夜の宿泊にも関わらず、早朝から山荘に到着する。
美しい朝焼けに早速心が洗われ、文太郎は荷物を山荘に置いて散策に出る。
雪に覆われ、誰もいない静かな山と美しい景色の虜となり、気の向くままに山を目指す文太郎。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
しかしこのあと天候が急激に崩れ、危険な状況となってしまうのだった。
急な天候悪化で文太郎に命の危機が…
山の天候が崩れて吹雪きだす。
黒沢とその部下が山荘に到着したが、まだ文太郎は山荘に戻っていない。
防寒具などの装備は山荘に置きっぱなしであり、さらにはジーパンのままのため雪で濡れたところが凍って容赦なく体温を奪っていく。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
山荘の管理人は文太郎の命の危険を察して捜しに飛び出し、状況を聞いた黒沢はやむなく警察よりも早い対応を求めて大西先生に連絡。
その頃、運悪く難しい登頂ルートを選んでいた文太郎は寒さに凍えながら思うように下山することもできず、風を避けようと岩場の陰に身を屈め、凍死寸前の危険な状況に陥っていた。
管理人が単独での捜索を断念する一方、連絡を受けて山荘に到着した大西先生は黒沢を怒りをぶつけつつも黒沢とザイルパートナーとなって捜索へ出発。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
その頃、文太郎は雪崩に巻き込まれてしまうが、運良く自力で雪から這い出て、本能に従って山頂を目指して身体を動かし始めるのだった。
大西先生と黒沢の因縁となった10年前の事件
10年前のある事件をきっかけに、大西先生と黒沢の間には因縁があった。
当時、登山の最中に吹雪に襲われ、先輩の礼子が遭難。
部長だった黒沢は早々に捜索を切り上げる決断を下すが、礼子を慕っていた大西は命令を無視して捜索を続行した。
大西と黒沢の2人だけで捜索することになると、黒沢は迷うことなく谷底へ直行。
そこには滑落して全身を強打し、瀕死の状態にある礼子がいた。
明らかに助かる見込みはなく、死人同然の奴を助けるために無駄な犠牲を払う必要はないと言い捨てる黒沢。
しかし大西は礼子のザイルにはナイフで切断された痕跡があるのを見つけてしまう。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
命を預けあうための大切なザイルを切断するなど、山の常識では考えられない行為。
そのまま礼子は山で息を引き取り、弁明も悪びれる様子もない黒沢に大西は強い怒りを抱くこととなる。
黒沢はその後当時の状況について、礼子の足場が崩れ、ザイルで結ばれていた自分も片腕で礼子を支えながらピッケル1本で崖にぶらさがる危険な状況となり、緊急避難としてザイルを切らざるを得なかったと説明。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
だが事件を機に山岳部を通じて作っていた就職のコネも白紙となってしまい、人目を避けるようにして日の当たる場所から遠ざかっていったのであった。
文太郎の無事を確認
雪崩の痕跡を見つけるも、そこから山頂へと続く足跡から文太郎の無事を確認した大西先生と黒沢。
すぐさま山頂を目指す文太郎の足跡を追う。
しかし崖を登っている際に黒沢の足場が崩れ、ザイルが引っ張られたことで大西先生が滑落しかけてしまう。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
礼子のときと同様、宙ぶらりんになった大西先生を黒沢が支える構図となった。
黒沢がおもむろにナイフを取り出し、衝撃で肩が抜け動けない大西先生に緊張が走るが、黒沢はその場でビレイを取る工作を済ませて両手を空け、素手で大西先生を引き上げて助ける。
そして黒沢は「俺は切った事なんてねえ。ザイルを切る奴なんていねえよ」と、礼子の事件の真相を明かすのだった。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
黒沢が事件の真相を明かす
10年前のあの日、黒沢と礼子は下山したら結婚する約束を交わしていた。
しかし礼子の足場が崩れて宙ぶらりんの状態となってしまい、このままでは2人とも落下することを悟った礼子は黒沢だけでも助けるため、そして運が良ければ自分が大怪我だけで済むと考え、自らザイルを切った。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
黒沢はその後礼子の落ちた谷底へ降りて行ったが、全身を強打した礼子の左腕だけは見つけることができず、用意していた婚約指輪を礼子にハメてあげることもできなかった。
礼子の死に責任を感じ押しつぶされそうだった黒沢は、真実を語らずに世間からボコボコに叩かれて嫌われることで心を保とうとしたのだという。
真相を知り、大西先生は黒沢への誤解が解けたものの動揺を隠せないのであった。
文太郎が単独で登頂、しかしその背後では悲劇が…
一心不乱に山頂目指して登り続ける文太郎だが、凍傷になりかけた指がパンパンに腫れ上がっていることに気づく。
岩にへばりついたまま身動きが取れなくなり、意識も遠のいて滑落しかけるが、走馬灯を見た末に山から呼ばれたような気がして気を取り直した。
猛烈に生への渇望を感じ、無我夢中で岩にしがみついたことで5mほどの滑落で済み、再び山頂を目指す。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
だがまたいつ意識が朦朧とするかわからない危険な状態。
その様子を下から見ていた黒沢は、スピードを重視してノービレイかつ最低限の装備で崖を登ることを決める。
一方の大西先生は、山に愛されたかのようにたった一人で山頂に迫る文太郎を見て、山とは危険であり一人では決して登れないと信じてきた自分の考えが覆されたことで頭の整理が追いつかない。
そしてその時、崖上から落石が発生、その岩が無常にも大西先生を直撃してしまう。
「孤高の人」3巻©集英社/ 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎
自分の背後でそんな事件が起きているとは露知らない文太郎は、ついに山頂へたどり着き、そこから見る自然の美しさに息を飲むのであった。
【3巻のまとめ】
黒沢に唆されて八ヶ岳のアイスクライミングに挑戦することとなった文太郎だが、はやる気持ちを抑えられずに1人で山の中を散策しているうちに急に天候が悪化し、遭難してしまった。
黒沢は背に腹は代えられず大西先生に連絡を取り、2人で文太郎の救助へ向かう。
大学の山岳部時代の事件で大西先生は黒沢に対して強い怒りを抱えていたが、命を預け合うなかで10年越しに黒沢が当時の真相を明かし、誤解だったことを知った大西先生は動揺。
一方、自力で生きながらえていた文太郎は凍傷になりかける危険な状態ながらも心の向くままに単独で登り続け、ついに山頂に到達する。
だが文太郎を追う黒沢と大西先生の頭上で落石が発生し、その岩が無常にも大西先生を直撃してしまうのだった。
次巻へ続きます。
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