15世紀前半のヨーロッパのP王国では、C教という宗教が中心のもと地球が宇宙の中心と広く信じられていた。
その教義に反く考え方は研究するだけでも拷問を受けたり、火あぶりに処せられたりしていたが、12歳の神童ラファウはある日、フベルトという男と出会い、異端である地動説という研究と出会う。
その仮説から導き出される宇宙の姿の合理性と美しさに心を奪われたラファウは、その感動を貫くために異端の研究を続け、そして異端審問官のノヴァクによって処刑されてしまった。
しかし地動説はここで潰えず、ラファウがフベルトから受け継いだ研究資料は山の中に隠された。
ラファウの死から10年後、生きることに希望を見いだせていない代闘士のオグジーは同僚のグラスと共に異端者輸送の警備の任務に当たった際、異端者の男から唆されて異端の研究に手を貸すこととなる。
2人に託されたのは山で見つけたという地動説の研究資料だったが、グラスは命を落としてしまい、文字がろくに読めないオグジーは真理の追究のために全てを捧げる変わり者の修道士バデーニのもとを訪れ、頼ることとなる。
その地動説は異端だが宇宙と地球が調和する心理だと感じたバデーニは、オグジーを観測助手とし、世界を動かすべく行動を共にすることにするのであった。
3巻のあらすじを振り返ってみましょう。以下ネタバレ注意です。
目次
バデーニとオグジーの約束
石箱の中身から地動説の全容を理解したバデーニは、これが優秀な人物により作られたものであることを認めつつも、発表できる完成度ではないことを悟る。
これを完成させるのが自分の役目と判断し、オグジーと3つの約束を取り交わした。
・自分が死ぬまでにこの仮説を証明できなければ、関わった書類を全て燃やすこと
・オグジーは衣食住の提供を受ける代わりに観測手としてこの研究に協力すること
・全てが首尾良く進んで利益が発生した際、取り分はバデーニが9割得ること
オグジーは利益の1割をポトツキに贈るという手紙の言い付けを守ろうとするが、バデーニは無視して手紙を燃やしてしまう。
それでも手紙の人物の想いを継ぐべきと感じたオグジーは、その言い付けを胸にいざというときは自分の分け前を譲ることを考えるのであった。
天体の知識と優れた知性の持ち主を探す
行動を共にすることにした2人は都市へと向かう。
気優しいオグジーは貧民に施しを与えるが、バデーニは「平気で罪を犯す奴らに施しを与えても天国に行けるとは思えない」と指摘。
そのバデーニは、掲示板に天体の軌道の問題を貼り、天体の知識と優れた知性の持ち主が現れるのを待つことにする。
朝に掲示板を巡って問題を貼り、あとは出会いを待つだけ…。
と、その夕方には早くも解答者が現れた。
驚くべきスピードで解答を書き始めたのは、まだ幼い少女なのであった。
歴史に名を残すことを望んだ天才少女ヨレンタ
解答していたのは図書館で働くヨレンタという天才少女。
宇宙論の大家であるピャスト伯のもとに身を寄せていた代わりに彼女は、女性という理由だけで研究会への参加が許されないながらも、天文学への情熱からその研究会の会話をこっそり盗み聞きする毎日を送っていた。
先輩のコルベはヨレンタの優秀さを認め、論文を執筆させた。
これが評価されればヨレンタにとっては念願の天文台での仕事を得るチャンス。
そしてピャスト伯から論文を誉められるに至ったが、コルベはその論文の名義を自分に書き換えていた。
女性の名義で論文を出すことは一歩間違えば魔女や異端者扱いされてしまう大変危険な行為であり、コルベはヨレンタを自分の手足として使いながら天文台の仕事へ引き抜くことを提案。
ヨレンタにとっても悪くはない話であったが、それでも女だからという理由だけで差別を受け、自分の論文なのに歴史に名前も残せない悔しさが込み上げる。
悔しさを圧し殺しながら、生きるためにピャスト伯にこの論文は自分のモノではないことを宣言したヨレンタ。
そんなとき、掲示板で天体の軌道に関する出題が目に留まり、熱中できるものを見つけたヨレンタは男性の名前を騙って解答したのだった。
ヨレンタを協力者に誘う
解答を貼っている最中にバデーニとオグジーに話しかけられたヨレンタは、慌てながら「職場の主人に張出しを頼まれただけ」と誤魔化す。
するとバデーニは「主人のもとに伺いたい」と引き下がり、会話の中でバデーニはこの少女が解答者であることを見抜いた。
異端者扱いされやすい女性という点も、密告のリスクがない意味で好都合であり、バデーニはヨレンタに地動説の話を吹き込む。
信仰や常識を覆し大いに問題のある思想に驚きと戸惑いを隠せないヨレンタだが、彼女が研究者としてその仮説が気になるであろうことをバデーニは予測していたのであった。
天動説に生涯を捧げたピャスト伯との謁見へ
コルベに相談しようとするヨレンタだが、その時間は研究会でコルベは不在。
いつものように研究会の様子を盗み聞きすると、ピャスト伯は自身の死期が近いことを悟り、宇宙論の完成を急いでいることを知る。
女性でも才ある者には分け隔てなく接するピャスト伯は、ヨレンタにも「見せたい論文があったら持って来い」と指示し、ヨレンタはこの世界で上手く生きることよりも自分の研究心にかけて地動説を証明し世界を動かす挑戦を決意した。
ヨレンタはバデーニとオグジーに自分が解答者であることを打ち明け、ピャスト伯を協力者として紹介することを申し出る。
ところがピャスト伯の名を聞いたバデーニの表情が一瞬にして曇る。
ピャスト伯は完璧な天動説の証明に人生を捧げている人物であり、地動説とは対極の考えを持っていたのである。
それでもヨレンタはピャスト伯が天動説よりも真理の追究を重んじるはずと考え、バデーニはいざというときはヨレンタに魔女の罪を擦り付けて逃げる考えのもと、ひとまずピャスト伯に会ってみることにするのだった。
天動説の矛盾を賭けた運命の観測
病床に伏せるピャスト伯と面会し、地動説の研究のためにピャスト伯の観測記録を貸してほしいと切り出すバデーニ。
ピャスト伯は予想通りバデーニの依頼を断ったが、一族の恥と揶揄されながらも宇宙の研究に人生を捧げ、自分もかつて同じ情熱を抱いた従兄弟違いから道具や資料を受け継いだことを思い出す。
従兄弟が一生をかけても完成させることができなかった天動説の宇宙論を引き継ぎ、自分もまたその正しさを証明するために人生をかけた身。
しかし大事なのは宇宙の真理の究明であり、ピャスト伯は「地動説の間違いを自ら証明させるため」という名目でバデーニらに資料を提供することを決意した。
ちょうどこの時期は金星が時期。
天動説では金星は常に欠けているように見えるはずだが、昔ピャスト伯は「満ちた金星」を観測したことが天動説の矛盾として気がかりになっていたのである。
見間違いだったと信じたいピャスト伯は、「満ちた金星」が観測できるかどうかをバデーニらに確かめさせることに。
優れた視力を持つオグジーが観測を担い、運命の観測へ。
そして願いを込めながら天を見上げたオグジーは、「満ちた金星」を観測したのであった。
ピャスト伯の膨大な資料を手にする
天動説ではあり得ない観測結果を知り愕然とするピャスト伯。
積み上げられた研究が瓦解したことを認めたくない感情が沸き上がるが、オグジーの観測結果こそが求めていた真理であることを受け入れ、涙ながらに膨大な資料が眠る資料室のカギをバデーニへ渡す。
バデーニは資料を村に運んで研究に専念することを決め、ヨレンタには感謝しつつも協力はここまでと告げた。
地動説を完成させてほしいというヨレンタの願いだけを受け継ぎ、ヨレンタ自身には今後何か異端の疑いをかけられてもバデーニらとは無関係を貫くように指示し、別れることに。
別れ際、オグジーはヨレンタから文字を読めることはまるで世界が広がったような奇跡であることを教わり、文字の読み書きに強い憧れを抱くようになる。
その一方、夜風に当たりながら書き物をしていたピャスト伯は真理にたどり着いた満足を胸に抱きながら寿命を迎え、天に召された。
倒れた際にその書物は庭へと落ち、次の者の運命を変えることになるのであった。
【3巻のまとめ】
バデーニ主導のもと、オグジーと2人で地動説の研究が秘密裏に進んでいく。
2人は女性と言う理由だけで表社会に名を残すことができずにいた天才少女のヨレンタと出会い、その協力のもとで宇宙論の大家であるピャスト伯の持つ膨大な資料を手に入れた。
天動説の証明に一生を捧げていたピャスト伯にとっては人生を否定されるに相当する衝撃だったが、地動説という心理に辿り着いたことに満足しながら天に召される。
そしてピャスト伯が亡くなる際に書き綴っていた書物が庭へと落ち、また運命の歯車が回るのであった。
次巻へ続きます。
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